TCG「ミラクルVマスター」が早期終了した理由の考察
1. はじめに
本文章は「ミラクルVマスター」というTCGの何がダメだったのかを記載した文章です。先に申し上げますと私は「ミラクルVマスター」は大変大好きであり、あくまでこの文章は「ミラクルVマスターは面白かったけど、多分売れなかったのはこういうことだろうな」と思いながら書いています。
2. 結論
先に結論を記載する。なぜかというと、長い文章となり途中で結論を聞かないままブラウザバックされることがないよう、先に結論を書く。
・ コンボの性質上、カードの拡張性が厳しすぎる
・ デッキに同じカードが1枚しか入らないと、すぐに購買意欲が満足してしまう
・ リニューアルに伴い、ルールも世界観もばっさり切り捨てたら、ユーザからも切り捨てられた
3. ミラクルVマスターとは
ミラクルVマスターとは、コロコロコミックと対をなしていたコミックボンボンを宣伝の中心としたTGC(トレーディングカードゲーム)のことである。始まるまでの歴史は古く、1994年に発売されたスーパーファミコンのゲーム「大貝獣物語」が原作のTCG「ザ・ミラクル オブ ザ・ゾーン(通称MOZ)」が4年年近く運営され続けた後、リニューアルされたTCGである。
3.1. ルールの概要
ルールにかなりの独自性があり、一番近いルールはポーカーである。ブイドール(いわゆる召喚士)と呼ばれるカードの上(天)と左右の3か所にゴッドソルジャー(いわゆる召喚獣)と呼ばれるカードを配置、下にはヘルプカードと呼ばれる補助カードを配置する。お互いに1枚ずつ配置して、両者4枚ずつカードを出し終えたら、SPカードと呼ばれる強力な補助カードをお互いに出す(任意)。その後、合計パワーを競い合い、勝った方が相手のマインドエナジー(MEいわゆるライフ)にダメージを与える。これが1ラウンドの流れで、これを繰り返して相手のMEを0にしたら勝利となる。これに加え、場に出す3体の召喚獣に特定の共通点がある場合、コンボが成立し、パワー差関係なく勝利した上で、与えるダメージもコンボによって倍増する。
やってみるとルールはシンプルで、お互いに1枚ずつカードを出すため、割り込み処理がない。また、デッキ枚数は50枚だが、各デッキに入れられる同名カードは1枚までなので非常にリーズナブルに遊ぶことができ、子供でも遊びやすいゲームである。また、ラウンド途中に「降りる」を選択することでリスクを回避するなど駆け引き要素もある。
詳細なルールはそれぞれこちらを参照(公式サイトはもうない)。
ザ・ミラクル オブ ザ・ゾーン (MOZ)
http://card.g1.xrea.com/t1/tam01moz.html
ミラクルVマスター
http://card.g1.xrea.com/t1/tam01mvm.html
MOZも含めてゲームボーイやアドバンスでも展開されているので、割と遊んでいる動画は見つけられそう。
3.2. 短い歴史
先程話した通り、TCG「ザ・ミラクル オブ ザ・ゾーン(通称MOZ)」のリニューアル版となるが、CMには相当力を入れていた。映画館の上映前CMで流したり、コミックボンボン(約450円)にスターターパック(1,200円)を付録でつけるという太っ腹ぶり。ボンボンを買えばいきなり遊べるという新規ユーザをゲットするために狙った戦略も取っている。
……ただし、悲しいことかな。「ミラクルVマスター」は第2弾で販売終了となった。
4. 何がダメだったのか
4.1. コンボの性質上、カードの拡張性が厳しすぎる
先にコンボについてもう少し詳しく説明する。コンボとは3体の召喚獣を特定条件で揃えた時、パワー関係なく勝利でき、与えるダメージも何倍にもなる。MEは初期50で基本1ラウンドごとに8~10ダメージ与えるので、6~7ラウンドは勝利しないといけない。だが、コンボがあれば2~6倍のダメージを与えることができるのだ。というか5倍以上のコンボは食らえば即死である。以下に相手のコンボをつぶしつつ、自分のコンボをそろえるかがカギとなる。
さて、このコンボのルールの何がよくないかというと「新規カードが出れば出るほど、コンボが揃いやすくなりすぎること」だ。ポーカーに例えればわかりやすい。もし、52枚のトランプのカードで20枚のデッキを組めと言われれば、高い数字で固めてスリーカードなどを狙ったり、同じマークのカードを揃えてフラッシュを狙ったりするだろう。52枚のトランプならまだいい。だが、この先の拡張弾で新しいマークや新しい数字が出たらどうなるか?デッキは全てAになったり、スペードになったりするだろう。それだけでなく、効果は違うがマークも数字も同じカードが出てきたなら、最終的には20枚全てスペードのAになるだろう。
というかそこまで行きついたら引き運もくそもない。デッキに同名カードが入れられないルールかつ50枚という大量のカードにより、どのラウンドでどのコンボを揃えられるか、どのラウンドで降りるかが重要のゲームなのにそれらが全て無と化す。その上、これまで購入してきたカードの積み重ねが強さに直結するので、新規ユーザはまず勝てない。
なお、ほぼ同じルールなのにMOZはどうやってこの問題を回避したかというと、カードの裏面の色を変えたのである。つまりは完全新規の別環境を作ったのである。まあ、過去の環境とは勝負できるが、基本的にTCGは強くしていかないと購買意欲が刺激されないので、実質常に新しい環境となっている(それでも旧環境ように毎弾数枚はカードを出しているので、完全切り捨てというわけではない)。
また、ミラクルVマスターもその辺はちょっとだけ考えており、1つのデッキに入れられる同じ属性のカード枚数に上限をかけたのである。これにより同属性を揃えるコンボ(エレメンタルコンボ)は新規カードが出ても問題が亡くなった。悪くない方法のようにも見えるが、デッキのルールが複雑になった。加えて、全てのコンボに対して縛りをかけたわけではないので、縛りが緩いサブ属性[竜]を揃えるドラゴンコンボがだいたい環境を占めていた。あのまま拡張弾を出していくなら、おそらくサブ属性にも枚数制限がかかり、より一層デッキ構築のルールが厳しくなるだろう。
4.2. デッキに同じカードが1枚しか入らないと、すぐに購買意欲が満足してしまう
ゲームの面白さではなく売り上げの話である。デッキに同じカードが1枚しか入らないなら、1枚当たった時点でそのカードを追加で買う必要はない。逆に2枚以上持っているカードは全て不要カードである。こうなるとお互いのダブったカードを交換して枚数を平均化すれば、少ない購入枚数であらゆるデッキが構築できるようになる。そして、1枚あればコレクション欲も最強を目指す欲も満たされるので、それ以上パックを買うことはまずない。
本来のTCGなら1枚だけではなく上限(ここでは3枚と仮定する)まで揃えないと、ドローできる確率が低いため、意味がないことが多い。とはいえ3枚まで揃えることは必須ではないが、仮に各カード3枚ずつ揃えようとすると、その金額は3倍では済まないだろう。それどころか、1枚入手してしまったことで、あと2枚が欲しくなることもある。ソシャゲのガチャによくある「同じキャラを組み合わせると強くなる」もこれにあたるだろう。コレクションとしては1枚でよくても、最強を目指すなら使わない可能性があっても買いたくなるのである。
加えて、デッキ50枚のうち1ゲーム25枚程度使用した終了することも考えると、強力なカードが1枚入っていないぐらいでは、さほど弱くならない。事実、私が大会で優勝したときは「パワーバキューマー」という汎用性強カードはいれないまま優勝できた。別に完全にそろえなくても結構何とかなってしまう。じゃあそんな無理してお金はつぎ込まないよね。
これにより、ユーザには優しいが、売り上げは1/3以下には落ちるだろう。というか学生時代の自分が全種類揃えられていたことを考えると、上位のユーザでも大してお金を落としていないと思う。
4.3. リニューアルに伴い、ルールも世界観もばっさり切り捨てたら、ユーザからも切り捨てられた
途中で話したが、旧作のMOZは新環境を常に作りつつも、旧環境も少しずつ補強していた。だが、ミラクルVマスターになるにあたり、旧環境のカードは弱いどころか戦えなくなってしまった。対して、遊戯王はラッシュデュエルを新規に作りつつも、これまでのデュエルは別途残している。もし、これまでのデュエルを完全に削除したならミラクルVマスターと同じ道を辿っただろう。
加えて、世界観も一新した。この新しい世界観はそれなりによい物であった。加えて新キャラもかなりいい(特にパンプー・ジェニーはロリ貧乳とお姉さん巨乳を併せ持つ、ボンボンによくある子供の性癖を破壊するキャラであった)。だが、そもそもMOZは大貝獣物語というゲームのTCG版であるのに、大貝獣物語とは一切関係なくなったのである。じゃあ、なんなのこのTCG。普通にただの新しいTCGじゃん。私はこの流れで新しく入ったプレイヤーだが、普通にこの流れでやめていったプレイヤーのほうが多いだろう。新規を蔑ろにするのはよくないが、既存プレイヤーを蔑ろにするのもダメだよねって話である。
なお、この辺上手くやっていると思うのがポケモンカードゲームで、一気に過去のカードが使えなくなるのではなく、少しずつ過去のカードを使えなくしているので、切り捨てられた感はかなり少ない。とても賢い。
4.4. その他
売れなかったダメな点ではなく、今後直していきたいよねって思える程度のダメな点を箇条書きで書く。結局、環境は収束していたので、何らかの修正は必要だったし。
・ 成功率とダメージ倍率を考慮すると、結局全員がドラゴンコンボに行きつく。
・ 意図してあらゆるカードを無効にする上級カードが3枚用意されており、この3枚を先にたくさん引いたほうが勝つ。デッキ50枚に1枚ずつしかない点がここにも影響が出ており、引くかどうかは運である。
・ 先出で上級カードを一時的にラウンド中使用不可にするカード効果を持つカード(SP封印)があり、運に任せず勝つためにはみんなそのカードを入れるようになり、さらにデッキ構築幅が狭まる。
5. あとがき
色々と悪い点ばかり言ったが、私はミラクルVマスターが大好きである。コンボパーツが2枚しかない状態でコンボを開始し、「最後のコンボパーツ来てくれ~!」って願いながら1ターンずつドローするところとか、相手の状況を見つつ、ラウンドを降りる選択をすることとか、SPカードの読み合いで見事勝利した瞬間など、遊んでみればめちゃくちゃ面白い。
だが、面白くても売れるとは限らない。拡張性が乏しく、購買欲を刺激できず、既存ユーザはやめてしまう状況にもなってしまえば、売り上げの低さからサービス終了となってしまう。TCGを売るのであれば、ガチャのあるソシャゲなども遊んでみて、どういうゲームならお金を落としたくなるのかも考えた方がよいだろう
なお、この記事を書いたきっかけだが、元々はボードゲームデザイナーの「Shun@Studio GG」さんの以下のつぶやきから、1枚ずつしかデッキに入れられないミラクルVマスターを思い出して、テンションが上がり、長文を作成したが、この命題は前提条件を含めて、色々考えるのが楽しいので、ぜひあなたも考えてみてはいかがだろうか?
ちなみに私の考えは、上記の問題を「禁止を出したとしてもユーザからの不平が少ないためにはどうすればよいか」に置き換えて考えている(環境が壊れようが禁止を出さないとか、拡張弾を出さないなども正解だと思うが、それは前提条件に「売り上げは悪くてもよい」ってのを入れて考えていると思う)。
そのように前提条件を置くと、ポケモンカードのように、シーズンごとに過去の環境が使えないようにしていくことで、購入前から禁止カードとなることを意識させ、いざ禁止を出してもユーザのストレスを減らすことだと思う。そもそも、バランスをとることと購買意欲を刺激することは相性が悪いので、次々インフレさせていき、忘れたころにやってくる組み合わせて危ない古いカードは定期的に禁止していくのが安全だと思う。