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「ゴールドフィンガー巨大金融詐欺事件」ネタバレ感想 2

2回目、観てきました

1回目の感想は以下のnoteにあります
1回目から気になっていたことや、2回目で気づいたこと、思ったことを書こうと思います

オープニングの海の色、ブルース・リーの映画の香港の海の色みたい!と心が踊りました
濁っていて重たくて懐かしい、そういう色です

船上のチンの独白は、「失敗して多額の負債を負った」(その割に軽い口振りなのは、この人あまり反省しないタイプなのではと思わせます)、「香港に何かあると思った」(目端が効く種類の頭の良さを感じます)、「起死回生の機会を見出して単身渡ってきた」(この人、山っ気があります)などを伝えていますが、「人の役に立つ仕事をするはずだった」が気になりました
この気持ちは本人には嘘ではないと思いますが、それが失敗を事実より軽く受け止める弁明になり、次の無謀なチャレンジを可能にする、山っ気を正当化する自己欺瞞に思えます
それでも、この時点では彼の山っ気は自分の人生の範囲であって、ツァンの依頼も報酬の全額を茶番をやり遂げるために使い切るなど、一時のゲームのつもりでした
この後、チンは変わります

印象に残ったのはツァンとの車内での会話、「自分に向いたことをしろ」に対する複雑な表情です
この時は「人の役に立つ仕事をする技師」である自分から流されて行っている自覚があったのだと思います
それが変わるのが、金山大廈に通りがかった時です
親指を口元に金山大廈を見上げる表情は手の届かないものを欲しがる子供のようです
あの時、チンは自分が香港でなすべきことの形を得たのだと思います

ラウとの関わりですが、ラウもチンも挫折からスタートしています
嘉文世紀に乗り込むラウを豪奢な建物とスタッフで威圧するチンに対し、お粥を取り上げ、手錠を断れば腰縄を掛けるという嫌がらせで応じるラウ
ICAC本部では人数で圧倒しようとし、仲間の取調室の前を歩かせるラウ、攻守入れ替わりつつも、この二人が似たもの同士だということがよくよく伝わる展開です
ここで気になったのは、低血糖で昏倒するチンです
「自分は低血糖な体質で、今は風邪気味」と断っていましたし、ちょうど勾留期限の48時間眠っているなど策略を感じはしますが、低血糖な体質は嘘ではないと思います
幼児期か成長期に十分な栄養を摂れず、慢性的な飢餓状態で育つと、成人後に糖尿病になりやすいという記事を読んだことがあります
作品中、チンはよくものを食べています
それは彼の足るを知らない欲望を表している、というより、彼の身体に落ちた飢餓、貧困の影のように思えます

チンとラウが直接火花を散らすシーンにカーテンの内の攻防があります
あの時の互いが妻子を大切に思う人間性と、目的のためには手段を選ばない覚悟を認め合ったのだと思います
次はラウの妻子が襲われるシーンです
前のnoteで「チンはラウの妻子を襲っていない」と書きましたが、2回目を観ても同じように思います
一つは、妻子を襲った車が1台目と2台目とで違うこと、だけではありません
1台目では、ちらっとドライバーの手首が映るのです
ベージュ系の細いチェック柄のジャケットのようでした
2台目には、ドライバーのヒントになるものはありません
また、2台目の襲撃には警察の護衛が駆けつけます
「政治部から指示があった」という理由ですが、「政治部」へ誰から垂れ込みがあったのでしょうか
これは、ラウの妻子が狙われると予測したチンの指示によるリークではないかと思うのです
そう考えると、1台目はチンも予想していなかった、突発的な個人の行いだと考えることができます
それが誰かはジャケットの柄がヒントになっているのだと思うのですが…
私はツァンかなぁと思っています
行方をくらましていたツァンがラウの妻子を襲い、失敗して逃亡を図り、捕まってえも言われぬことになった…というのが、私の想像するツァンの最期です

前のnoteで、「ツァンの息子ジョニーが生き延びるのは、罪を被せるためだけではなく、子供は殺さないというチンの意向ではないか」と書きました
2回目を観て、銀行の御曹司ホーも殺されてはいないのではと思いました
交際相手の遺体を発見するホーを確認して、殺し屋が去るからです
ホーも殺されるのであれば、遺体を出すだけで十分だと思うのです
どうして、ホーが殺されないかというと、香港の大銀行の御曹司であるということと、恐怖を与えるだけで十分という判断があったのかなと思います
他の二世たちは、易々とチンに手玉に取られていましたが、ホーは違いました
気骨のあるところを見込まれてチーム入りしたのだと思いますが、それでも自分一人命をかけて成り上がってきた他の人間には及びません
金山大廈の買収を持ちかけられた時、ホーは「父親は存命だ。自分にそんな金はない」と言います
自尊心の高いホーには屈辱的な台詞だったと思います
どこかに欠損を抱えた人間が、それを埋めるように何かを求め続けた、それがチンに見込まれた人間たちであり、チン自身であったのだと思いました

何もかも失ってホテルのスイートルームに暮らし、一人朝食をとるチンに「(この十数年)自分がいなければ、あなたは寂しかったでしょう」とラウは言います
このシーンでは香港の経済はすでに回復しており、チンは今も嘉文世紀があれば株価は高騰していたはずだったということを言います
チンの台詞は「ラウが余計なことをしなければ時間が解決した、全て元通りになったのに」という意味にも取れますが、ラウのチンを追い続けた十数年と同様に自分の数十年の虚しさも言っているように感じました

「寂しかったでしょう」の答えは、YESでもあり、NOでもあると思います
チンにとってラウは、そもそもが無常の人生においてのひとときの伴走者であったのかなと思います

取り急ぎ、こんな感じの感想です
他に気になることや、わからないこともあって、他の方々のブログを探せば1台目のドライバーもわかるのだろうなぁと思うのですが、それはいずれ

とてもとてもいい作品だったので、もっと多くの人に観てほしいなぁと思っています

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