『ニンテンドーミュージアム』は任天堂らしくない展示
つい先日の2024年10月2日、京都の宇治にニンテンドーミュージアムがオープンした。高い抽選倍率をくぐり抜けなければ、行くことすら叶わない。
一方で、この施設は異例ずくしのミュージアムだ。
それは任天堂の取り組みとしてもそうだし、企業の運営する博物館の観点からもいえる。
幸運にも私は、オープンの一週間後に訪れることができた。
今回はDS・Wii以降の任天堂ハード全てをやりこんでいる任天堂ファンの視点から、いかにこのミュージアムがイレギュラーなのかを考察したい。
企業の広報施設としての異質さ
ニンテンドーミュージアムの異質さを考えた時、まっさきに目に付くのは価格だろう。大人のチケットは3300円もかかる。
企業の運営する博物館でここまで高価なのは極めて異例だ。一般的なところなら半額以下で入れるところが多い。
しかも中で遊べるアトラクションは、一回の来訪で全て遊ぶことができない。遊ぶのにコインというものが必要で、入場時に配られる枚数だと全てをまかなうことができないからだ。追加購入もできず、全て遊ぶにはもう一度来るしかない。
また中で販売しているミュージアムショップやフードショップも割安なものはほとんどない。一万円を超えるグッズも多くある。
価格設定は全体的にみてとても強気だ。
一般的に企業向けの展示施設は「広報的」な要素が強い。だから気軽に来やすいように、赤字覚悟で価格を抑えている。推測にはなるが、展示施設単体で採算を取れているところは稀ではないだろうか。
一方のニンテンドーミュージアム。展示施設単体で採算を取ろうという気概を感じた。それは先述した高額な価格設定からも現れている。
この採算性については、任天堂の宮本茂もオープン前のインタビューで言及しているから、とても意図したものだろう。
ニンテンドーミュージアムを訪れる客層は、1/3くらいが外国人だった。だからスタッフも多言語に対応している。接客も丁寧だ。いってしまえば、金がかかる。
持続的な運営のためには採算性が必要だと判断したのだろう。
別に割安な企業向けの展示施設を否定するつもりは一切ない。単に方向性の違いだ。
間違いないのは、任天堂はこの展示施設でチャレンジングな試みをしているということだろう。
展示施設としての異質さ
そのチャレンジ精神に合わせてか、展示方法もユニークだ。
すぐに気がつくのは解説文がないことだろう。あるのは商品名と、せいぜ販売年や販売地域だけだ。必要最小限のモノに収まっている。
自社・サードパーティー製に関わらず「コピーライト表記(©)」すら出さない徹底っぷりだ。
アトラクションエリア内でなくとも、人感センサーを使った仕掛けがあるのもゲームの博物館らしい。
だが何より珍しいのは、導線がないことだろう。
一般的な展示施設では導線、すなわち「順路」がある。ニンテンドーミュージアムにはそれはない。
一番わかりやすいのは、第一展示室だろう。
入口を入ってエスカレーターをあがると、歴代のハード・ソフトの並んでいるエリアがある。ニュースにもよくでていたところだ。
中心に円があり、それを囲うようにして展示が並べられている。
今の子どもなら、ニンテンドースイッチに行くだろうし、大人ならファミコンに行くかもしれない。
好きなものをかいつまんで観てもよし、片っ端から観てもよし。まさしくオープンワールドだ。
目をこらすとエレベーターで上がったすぐあと、直進できないことがわかる。変わりにできるのは四方向の道から、好きなハードを選ぶこと。
下にあるアトラクションエリアへの移動方法も、複数ある。
導線ではなく、ゲームのデザインが持つ引力を使って自由に回らせるのは面白いと感じた。
試行錯誤の末のユニークさだろう。
任天堂らしくない(?)
そもそも展示施設を造ること自体、あまり任天堂らしくない。
後にニンテンドーミュージアムとなる施設、「任天堂資料館(仮称)」が2021年に発表がされた時、大ファンとして最初に思ったのは違和感だった。
Wii以降の任天堂は「任天堂IPに触れる人口の拡大」を掲げている。スマホゲームのリリースや、Nintendo TOKYOをはじめとした直販店舗はその一環といえるだろう。
しかし、常設の展示施設を作るのはまた別のベクトルだ。
ちゃんとした施設を構えなくてはならないし、人も雇わなければならない。それに付随して様々なリスクがつきまとう。
何よりも任天堂が、開発過程をオープンにしたがらない。
大作ゲームの発売であっても、(他社に比べて)制作者インタビューをあまり受けないことからもそれは伝わってくる。
完成した一流の製品でのみ、顧客とコミュニケーションが取れるというスタンスなのだろう。
普通に考えれば、発売されないゲームやハードを、任天堂は裏で大量に制作しているはずだ。
CEDEC2017で、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の試作過程の一部を公開したときは、非常に珍しい例であり大変驚いた。
ミュージアムを作って「任天堂の歴史」を展示するということは、開発過程をなるべくクローズドにし、製品でのみ顧客と対話してきた任天堂の姿勢と矛盾しないのか――。それが発表時に感じた違和感の正体だった。
「らしく」するために
実際にオープンした「ニンテンドーミュージアム」は、その疑問に答えるかのような、一流の展示だった。
先に述べたように、このミュージアムには解説文がない。
どういう意図でこのゲームが作られ、最終的になぜこうなったのか。
そこは来場者が推察するしかない。
WiiやDSなどに向けた試作コントローラーも展示されているが、どうしてカタチや仕様が変更になったのか。一切書かれていない。歴代の社長や、有名ディレクターの名前すらもない。
強いて言うなら、入口にひっそりとある宮本茂氏のサインくらいだろう。
属人性や制作工程をな可能な限り排除し、歴代の「完成した一流の製品」でのみ来場者と対話する。
任天堂が一見らしくない展示施設を、任天堂「らしく」仕上げるために使ったのは、そういう方法だった。
並べられた製品を振り返りながら、任天堂「らしさ」をぜひ楽しんで欲しい。
(最後にオマケとして「超マニア向け情報」を掲載しました。ぜひ末尾までご覧を)
【基本情報】
『ニンテンドーミュージアム』
公式サイト↓
所在地
〒611-0042 京都府宇治市小倉町神楽田56番地
電車でのアクセス
近鉄京都線「小倉駅」東口から徒歩5分
JR奈良線「JR小倉駅」北出口から徒歩8分
JR奈良線「宇治駅」北出口から徒歩22分
チケット
大人:3300円
中学・高校生:2200円
小学生:1100円
未就学児:無料
※全て税込み
(購入にはニンテンドーアカウントが必要)
開館時間
10:00~18:00
休館日
毎週火曜日および年末年始
※全て公開日現在の情報です
超マニア向け情報(オマケ)
オマケとして、超マニアック情報を紹介しておきます。
行った際はぜひ注目を。
【WiiUのプロトタイプ】
奥に、試作コントローラーが並べられている所があるのですが、かつての「社長が訊く」ででてきていた「Wii U GamePadの原型」が混ざっています。まさか実物がみられる時が来るとは……。
ちなみに出口の歴代製品が並んだエリアでは、E3 2011で公開された「スライドパッド型のGamePad」が観られます。
実際に発売されたのは押し込み可能なスティック式だったので、まさしく幻の形態……!
【My Nintendoアプリのチェックイン】
ホームページにも載っていませんが、実はニンテンドーミュージアム、My NintendoアプリのGPSチェックインの対象施設なんです。
しかし、チェックインをしても、Nintendo TOKYOのような景品はありません。壁紙をダウンロードできるとかも含め、一切なし。
ただし、アプリで行った記録は残ります。
歴代アプリのスペースにチラッと書いてあるだけなので、忘れずにチェックインしておきましょう!
(スタッフさんの中でもあまり認知されていないらしく、景品の有無について3人くらいに聞くことになりました)
【スプラトゥーンの聖地が近い】
ニンテンドーミュージアム、スプラトゥーンシリーズに縁のある地に近いんです。
せっかくなので一覧にしておきます。時間的に中々1日で回るのはキツいですが、宿泊される際は寄ってみては?
京都駅
「スプラトゥーン3」で登場する「リュウグウターミナル」の元ネタです。
新幹線のついでにどうぞ!
第二京阪道路鴨川西IC
『スプラトゥーン(初代)』の「デカライン高架下」の元ネタがコチラです。
任天堂本社も近いので、ぜひ。
京都水族館
『スプラトゥーン(初代)』の初報(E3 2014)で流れた、デベロッパーストーリーの撮影地がコチラです。ステージの元ネタにはなっていませんが、すごく縁のある地ですよ。