【人生の大切なことをゲームから学ぶ展】に行ってみた(レポート)
遊んで学べる展示はなかなか難しい。長々とした展示物を触ってくれるほど、来場者は暇ではない。WEBではなくリアルな展示にするならなおさらだ。一瞬でわかりやすい仕組み、高いメンテナンス性、何よりすぐにやってみたくなるような訴求性も求められる。
特に科学館の展示で遊べる展示は多いが、有名どころでも苦労しているところは多い。
だからこそ、名古屋造形大学のギャラリーでおこなわれた『人生の大切なことをゲームから学ぶ展』が気になったのだ。チラシを見れば少しレトロなゲームをモチーフに展示をしているとか。ゲームといえば、遊べる=インタラクティブ性の王様だ。
しかも新作オリジナルゲームを8つもプレイできるという。人気ゲームの企画展はよく行っているが、既にプレイした人向けの内容が大半だ。新作を、しかも8つもやるなんて、チャレンジ心が溢れている。これは観に行くしかない。
こうして実際に行ったところ、想像を超えて秀逸な内容だったのでレポートしたいと思う。
【筐体という魔法】
ゲーム性を持った展示には、一般的に用いられるパターンがある。日常でみることが困難な、巨大なコントローラーや人間の動きを感知するカメラを使った展示がそれだ。
一方で制作者側からすればリスクは高い面もある。奇抜なコントローラーに合った雰囲気作りが求められるし、実際に来た鑑賞者が予想していない行動を取ることもあり得る。展示ならすぐに覚えられる操作方法である必要もあるし、デバッグも大変だろう。
しかしそれらにコストを割くと、肝心なゲーム性がおろそかになってしまうことも多々ある。ゲーム性が低いと、奇妙な操作体系だったね。の一言で記憶にあまり残らない展示になってしまうのだ。
『ゲームから学ぶ展』はそれをどう解決したのか。
そうか、その手があった。
日常で見ないのに、どこか馴染みのあって操作がわかりやすく直感的。つまりアーケード機をモチーフに使った展示だ。まるで日常にある異世界のゲームセンターに迷い込んだよう。
シンプルな発想だが、まさしくコロンブスの卵。しかも八台も用意している。今となってはあまり見られない光景でどこか懐かしい。置かれることの多いゲームセンターは、照明が暗いことが多いので、明るい場所にあるのも非日常感を際立たせる。
【レッツプレイ】
では、さっそくプレイしてみる。
全8種類あるが、どれもジャンルが違う。アクションもあれば、RPGのようにコマンドを選択していく方式もある。全て共通しているのは、グラフィックがドット絵で描かれているくらいだ。操作方法は基本的に、スティックと最大2つのボタンを使うスタンダードな形式だ。丁寧に画面下にも貼ってある。変に奇をてらった操作はなく、どれも既存のゲームにあるボタン配置に寄せていた。
画像でプレイしているのは『勇者コマンド』という作品だ。ゲームは魔王討伐へと挑む勇者のシーンから始まる。勇者であるアナタは、豊富に用意されたコマンドを使って魔王と戦う。王道に「攻撃」や「回復」をしてもよし。「交渉」して平和に終わるのもよし。「交渉」した上で「不意を突き」殺すことだって可能だ。そして戦いのあとに勇者の選択に応じた後日譚が流れる……。あなたの行動は勇者か、策士だったのか。それとも……。
もっと端的に書けば、自らの行動によってエンディングが派生する「コマンド選択式アドベンチャー」だ。これがなかなか面白い。1プレイが1分ほどであり、すぐに別のルートも選べる。画面も覗きやすいので、友達が選ぶ選択をみてワイワイするのもいいだろう。
他のゲームもほとんどのものが3分もあれば遊べる。どれもユニークなコンセプトを入れつつ、既存のゲームをオマージュしているので操作をすぐに覚えられる。アクションのように苦手が人には厳しいジャンルもあるが、短時間で終わるのでストレスがたまりにくい。合わないなら別の機体で遊べばいいだけだ。
個人的に特に気に入ったのは『DEAD or ALIVE 欲望の迷宮』というゲームだ。エネミーのいる洞窟で、敵を避けながらお宝を集める。一定時間ごとに帰還するかしないかの選択肢が表示され、帰ればお宝をゲットできる。要はパックマンライクな内容だ(もちろんオリジナル要素もある)。
クリア時に名前を登録することができ、登録すれば獲得スコアの順位がでる。ゲームオーバーになっても「失った財宝」のスコア同士で競うことが可能だ。スコア競争という意味で、一番ゲームセンターぽくて気に入っている。
【遊ぶ展示として優れている】
こう書くと、展示というよりはアーケードの並べられたゲームセンターに近い。実際そうだ。壁面にゲームクリエーターや有名人の好きなゲームや製作哲学が貼られていたり、筐体の横に製作テーマ(たとえば成長をテーマにした)などが書かれているが、全体のウェイトとしては少ない。
この展示のベースにあるのは、教養的な要素やゲーム開発ができるまでの過程を見たりすることではなく、あくまでゲームとしての体験なのだ。
その振り切り具合が面白い。奇抜さを求めず、一方でリアル展示のよさを追求している。展示しているゲームのクオリティも申し分ない。Steamなどでネット販売があれば是非とも買ってみたい。
この『人生の大切なことをゲームから学ぶ展』は、ゲームあるいはインタラクティブ要素を入れた展示のあらたな可能性を示唆しているように思える。ユーザーに対してアソビ心のある素晴らしい展示だった。
【展示基本情報】
『勇者はUXデザインから生まれる?人生の大切なことをゲームから学ぶ展in NAGOYA』
日時:2024年9月16日(月祝)〜9月29日(日)
会場:名古屋造形大学ギャラリー 愛知県名古屋市北区名城2−4−1
アクセス:地下鉄名城線「名城公園駅」徒歩1分
参加費:無料
主催:株式会社たきコーポレーション
協力:公益財団法人日本デザイン振興会(予定)/名古屋造形大学
公式ホームページ↓