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365DAYS 第4話

出会い編 part.1

その頃、コウジは東京拘置所にいた。

逮捕されてから2ヶ月が過ぎようとしていた頃、電車を乗り継ぎ面会に向かった。「車があったらな……」駅で切符を買い、改札を抜ける辺りでそう思った。車での生活がまだ抜けきらないのと、乗れない状況になったショックで、悔しさと後悔が入り混じった感じだ。

差し入れに持参したのは熱帯魚の図鑑と車の雑誌を数冊。コウジは熱帯魚を飼っていて、でかい水槽を持っていた。そう言えば逮捕されてから何ヶ月も経っているけど魚たちはどうなっているんだろう、普通に考えたら全滅?そう考えるとこの本は差し入れに向いているか疑問に思えてきた。「まあ、いっか」今日は会うのが目的だからと持ち前の適当さでごまかした。「電車は退屈だな……」見る物がこれと言って無い電車の中で、流れて行く車窓の風景だけをずっと見つめていた。

雑居部屋と呼ばれる10畳ほどの部屋にコウジは収容されていた。常時6~7人程が一緒に暮らしており、年齢や出身地、罪状など様々だ。コウジはその部屋で既に1ヶ月以上過ごしている為、いわゆる”新入り”状態からは抜け出していた。同時期に過ごしていた人達は皆一様に気のいい人達だったそうだ。しかし拘置所生活も残り一ヶ月を切った頃に一人厄介な男が入ってきた。暴力団関係の人間で名前を若山と言った。

若山は26歳、背はそれほど高くないが、線が太く体に厚みがあった。和彫りの刺青が背中、肩、胸に彫られており、その風貌はヤクザその者だった。恐喝や窃盗、傷害などの複数の罪で逮捕され、コウジより1ヶ月程遅く入所して来た。

最初は皆と雑談を交わしたり、決まりごとに倣って生活していたが、ある時いびきをかいて寝ていた隣の者を叩き起こして、「うるっせんだよ、次いびきかいたらぶちのめすぞ!」と脅しを入れた。
その頃から徐々に横暴さが見え始めた。気に入らない者の行動一つ一つに文句を付け、機嫌が悪ければ当り散らし、特に自分より後に入ってきた新入りには攻撃的だった。標的を決めては命令をし、高圧的な態度を繰り返していた。

コウジはそんな若山に対し当たり障り無く過ごしていたが、若山の横暴な態度は日を追うごとに酷くなり、その矛先はとうとうコウジにも向かってきた。

それはコウジが部屋の皆と雑談をしていた時だった。
話上手な”通称”おっちゃん”の小話に皆が大うけだった。

「わしが高校生の頃によ、友達と一緒に定食屋でメシ食ってたら、横で障害を持った人がメシ食っててよ。手をブラブラさせて、うなりながら食ってたんだ。あんまりにも特徴があったもんでよ、その食い方で食べれるか真似して食ってみたんだよ、そしたら突然、後ろのテーブルから正義感の強そうなおっさんが現れてよ、

『障害を持ってる人を馬鹿にするな!!!』

って叫びながら、障害者の方を殴ったんだよ」※1

この本当かどうかわからない小話に皆が笑っていた、とりわけコウジはツボに入ったのだろう腹を抱えて笑っていた。
一通り笑いが静まった後もまだ笑っていた、よほどおかしかったんだろう。

そしてその笑い声に反応したのが若山だった。
眉間にしわを寄せて笑い声がする方を向き、「おい。うるせーよ!」

部屋の全員が声のする方を見た、それまでの雑談が無かったかの様に静まり返る室内。
若山がコウジの方を見て、

「こっちは、裁判前なんだよ、ヘラヘラ笑ってんな」

そう言われたコウジは若山から目を離さない、しかしだるそうに視線を外し「すいませんでしたー」と納得のいかない様子ながらも、ふてぶてしく謝った。しかしその態度を見て若山が更にキレた。

「何だお前、それが謝る態度か、おい!」

怒鳴りたてる若山が、立ち上がりコウジの方に歩みよる。

「おう、コラ、どうなんだ! 何か文句あんのか!」

キレて赤みを帯びた顔色の若山、座っているコウジを見下ろしながら睨み付ける。その大きな声は廊下にいる看守の耳にも届いていた、看守がドアを開けて入り口を塞ぐ様に立ち、

「どうした、何やってるんだ」そう言って室内を見渡たした。

看守が一人立ち上がってる若山の方を見て、

「お前、何突立ってるんだ、まさか喧嘩してんじゃ無いだろうな」

諦めと仕方ないなと言う表情で「してないですよ、なんでもないっす」と言って自分の居場所に戻る若山。

「お前ら、次に何か揉め事があったら独居房に移すからな、覚悟しておけよ」

看守がそう言って立ち去ろうとした時、「それと、明日ここに1人入って来るから」と告げて去っていった。

この場は収まったが、若山とのこじれた関係はコウジには不安の種となってしまった。コウジの裁判まで後1ヶ月を切った頃の話だった。


※1 引用元【面白】人生で最も笑った話 台詞用に改変してあります。


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