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好きな本を軽々しく紹介するコーナー「駈込み訴え」(太宰治)
好きな本を軽々しく紹介するコーナー!
『駈込み訴え』(太宰治)
20ページくらいの太宰ニキの短編。青空文庫にあるので無料。なんと漫画村感覚で読めちゃいます。いわゆる文豪ですけど、イメージのような暗さはなくて読みやすいのです。
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この作品の魅力はなんてったって口調の良さ。勢いがあって、語り口のリズムがとにかく小気味よい。読んでて気持ちがいい。
全文が、ある男による熱烈な“訴え”です。以下冒頭。
申し上げます。申し上げます。旦那さま。あの人は、酷い。厭な奴です。悪い人です。ああ。我慢ならない。あの人を、生かして置いてはなりません。私は、あの人の居所を知っています。
すぐに御案内申します。ずたずたに切りさいなんで、殺して下さい。
(中略)
私はきょう迄まであの人に、どれほど意地悪くこき使われて来たことか。どんなに嘲弄されて来たことか。
ああ、もう、いやだ。堪えられるところ迄は、堪えて来たのだ。怒る時に怒らなければ、人間の甲斐がありません。
私は今まであの人を、どんなにこっそり庇かばってあげたか。誰も、ご存じ無いのです。あの人ご自身だって、それに気がついていないのだ。
いや、あの人は知っているのだ。ちゃんと知っています。知っているからこそ、尚更あの人は私を意地悪く軽蔑するのだ。
あの人は傲慢だ。私から大きに世話を受けているので、それがご自身に口惜しいのだ。あの人は、阿呆なくらいに自惚れ屋だ。私などから世話を受けている、ということを、何かご自身の、ひどい引目ででもあるかのように思い込んでいなさるのです。あの人は、なんでもご自身で出来るかのように、ひとから見られたくてたまらないのだ。
ばかな話だ。世の中はそんなものじゃ無いんだ。この世に暮して行くからには、どうしても誰かに、ぺこぺこ頭を下げなければいけないのだし、そうして歩一歩、苦労して人を抑えてゆくより他に仕様がないのだ。
あの人に一体、何が出来ましょう。なんにも出来やしないのです。私から見れば青二才だ。私がもし居らなかったらあの人は、もう、とうの昔、あの無能でとんまの弟子たちと、どこかの野原でのたれ死にしていたに違いない。
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いいですねぇ、口ざわりの良い一人称独白。
じっさいに口述筆記で書かれたらしいです。全文がこんな感じで続きます。僕は4000年に一度咲く金指さんの声で再生されました。
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お話自体は新約聖書の一番有名なシーンの翻案、いわゆる「最後の晩餐」のあと、ユダが裏切る場面です。熱烈に訴えているのはユダです。
イエスと敵対する役人に、キリストの”悪行“を、堰を切ったようにユダがブチまけ続ける。よほど強い怒りがあるらしい。
聖書だとユダはがっつり最悪人間として描かれてます。悪魔に取り憑かれて罪を犯した、みたいな。
一方、『駈込み訴え』ではキリストの元トップオタとして登場します。彼の訴えには愛や憎しみが見え隠れします。
ユダの佇まいが「推しに失望して暴れるオタク」に見えて、微笑ましいやら身につまされるやら。なんて人間。いるいるこんなやつ。
女性声優の熱愛報道がでた際に「こんな思いをするのなら花や草に生まれたかった」と残した人みたいな。ちょうど『推し、燃ゆ』と同時期に読んだので、そんなふうにも感じました。
なぜ彼はキリストを裏切ったのか。
聖書には「銀貨30枚の報酬に目が眩んでイエスを売った」と書いています。果たしてそれは本当でしょうか。
銀貨30枚というのは、商才に長けたユダにとって、目が眩むほどの大金ではなかったといいます。
太宰ニキはユダを嫌と言うほど人間臭く描くことで、その謎に答えてみせています。
良かったら短いし、漫画村感覚で読んでみてください。kindle版や青空文庫リーダーが読みやすいのでオススメ。
以下、去年以前に読んで強烈に好きな本。力尽きてしまい、気が向いたらポツポツと書かせていただきます。読んだことあるぜ!という方はお話ししましょう。タイトル順不同。
木のぼり男爵
春琴抄
告白(町田康)
補陀落渡海記
お目出たき人
深い河
うたかたの日々
自分の中に毒を持て
マンスフィールド短編集
母の発達
虐殺器官
或る小倉日記伝
悪童日記
百年の孤独
ピダハン
スローカーブを、もう一球
エロマンガ表現史
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