【受賞団体インタビュー】奨励賞:一般社団法人ハレルワ(前橋市)
群馬県地域づくり協議会事務局です。令和5年度地域づくりAWARDで奨励賞を受賞した「一般社団法人ハレルワ」の間々田さんにインタビューを行いましたので、その様子をレポートにします。
1.受賞の感想
【事務局】この度は受賞おめでとうございます。受賞した感想や応募動機などをお聞かせください。
ありがとうございます。「地域づくり」ということで、ハレルワの活動と異なる部分があるかもしれませんが、地域にLGBTQ(※1)の方々がいるということを知ってもらう機会になればと思い応募させてもらいました。
受賞によって多くの人にLGBTQのことを知ってもらうきっかけになり、とてもうれしく思っています。
※1 LGBTQ
レズビアン/ゲイ/バイセクシュアル/トランスジェンダー/クエスチョニングなどの頭文字を取って名付けられた総称
2.活動を始めたきっかけ
【事務局】活動をはじめたきっかけを教えてください。
実は私はハレルワ代表でいうと2代目になります。ハレルワの活動に出会ったのは、社会人1~2年目のときです。X(Twitter)でハレルワの活動を知り、最初はハレルワの交流会に参加者として加わっていました。
あるとき、初代代表が事情で県外に出ることになりました。当時のメンバーの多くが学生であったこと、私が仕事でデザインや行政とのやり取りなどをやっていたこともあり、代表の打診がありました。ちょうど、私自身も自分の体験をみんなと共有する活動をやりたいと思っていたので、2代目を受けることにしました。
【事務局】ハレルワが立ち上がったときの活動内容を教えてください。
今年でハレルワが立ち上がって8年目になります。立ち上げ当初は月1回、高崎市のソシアスで交流会を開催していました。自分の悩みを相談したり、特定のテーマを決めてみんなで議論したりしていました。その後、ハレルワの活動がメディア等に取り上げられるようになると、講演の話をいただくなど、活動の幅が広がっていきました。
講演など交流会以外の活動が増えてくると、だんだん忙しくなってきて、仕事の合間で活動することが難しくなってきたので、仕事を辞めて団体の代表としての活動に専念することになりました。
【事務局】仕事を辞めて団体代表をやるのは、大きな決断だったと思います。代表をやっていて良かったと思うことはありますか。
メディア露出をきっかけに、自分の生活や活動に嘘をつかなくて良くなったことは大きいです。
まだ社会人をやりながらハレルワの代表をしていたときでしたが、活動に興味を持ってくれた新聞記者から「記事の中で顔出し、名前出ししませんか?」というお声がけをいただきました。当時はまだまだ偏見もあり、それまで取材があってもニックネームや仮名を使っていましたし、写真も後ろ姿のみで対応していました。ただ、活動の幅も広がり、さすがに仮名も厳しくなってきたので、リスクを伴う決断でしたが、顔出し、名前出しで記事に出て、活動を紹介してもらいました。
当時の私も含めてLGBTQの方の多くは、性別やパートナーのことなどで、つきたくもない些細な嘘を積み重ねて生活しています。私はそれがすごい苦痛でストレスだったのですが、記事に載ったことによって、嘘をつかずに生活できるようになりました。当時の会社の方々からも「新聞で間々田さんの性別のことを知ったけれど、私たちの関係性は何も変わらないよ」と言ってもらえたことは嬉しかったですし、やはりメディア露出をきっかけに自分の生活や活動に嘘をつかなくて良くなったことが代表をやって良かったと思えることでした。
【事務局】ここ数年、メディアでもLGBTQについて頻繁に目にするようになり、まわりの理解も変わってきたと思いますが、いかがでしょうか。
そうですね。2015年に渋谷区でパートナーシップ制度(※2)を始めたことがきっかけで、メディアでもLGBTQが使われるようになったと思います。とはいっても、まだまだ自分の身近にLGBTQの方がいるという感覚を持っていない方が多いと思っています。実際には日本の人口の約10%の方がLGBTQであるという調査結果もあり、この割合は左利きの人の割合とほぼ同じになります。
コミュニティスペース「まちのほけんしつ」(※3)に来てくれる方を見ても、職業も多様だし、10~60代までの幅広い方がいらっしゃいます。学校で講演会をした際は、放課後に「個別相談会」を開催しているのですが、そちらにも1校あたり2~3人来てくれます。それだけ、身近にLGBTQの方がいるということです。
※2 パートナーシップ制度
同性同士の婚姻が法的に認められていない日本で、自治体が独自にLGBTQカップルに対して「結婚に相当する関係」とする証明書を発行し、様々なサービスや社会的配慮を受けやすくする制度。群馬県も2020年に導入している。
3.活動中の出来事
【事務局】これまでの活動の中で苦労したことを教えてください。
苦労したことは、人の育成でしょうか。他の団体も同じ問題に直面していると思いますが、LGBTQの場合は学校、職場、家庭環境からメンタル的なしんどさを抱えている人が少なくありません。
自分の居場所でもあるから、しんどさを抱えたままでも活動してしまうので。そうすると、症状がひどくなって、過去には活動を休まざるを得ない人や団体から抜けてしまった人がいます。そうならないように、どうしたらよいか。これが現状の課題です。LGBTQの場合、支援側がメンタルを崩しているケースもあります。まずは自分たちがいかに健康でいて、活動が続けられるのかが重要だと思っています。
【事務局】活動の中で記憶に残っていることを教えてください。
現在の活動拠点となっている「まちのほけんしつ」を整備したことです。「まちのほけんしつ」は不登校・ひきこもりの若者を支援している団体「アリスの広場」と一緒に運営しています。不登校・ひきこもりの若者の中にもLGBTQの方がいて、その子から「一緒に活動ができて良かった」と言われたことが記憶に残っています。私はこの場所をLGBTQだけの場所にしたくないと思っていて、色々な人が交わり、まちに飛び出していってもらいたいと思っています。そういう点でも、「まちのほけんしつ」を「アリスの広場」のみなさんと一緒に運営できていることは大きいと思っています。
また、エピソードになりますが、当時は男の子の格好で「まちのほけんしつ」のすみっこでゲームをしている子がいたのですが、話を聞いてみると「実はスカートをはいてみたい」と言っていました。この話を聞いて私は「スカートを持ってきて、この場所で着て過ごしてみたら」と提案したところ、その後、その子はこの場所で好きな服を着て過ごすようになりました。
ある日、その子が自宅からスカートをはいて来てくれたので、ビックリして聞いてみたら、家族にもカミングアウトして家から女の子の格好で来てくれたというのです。
他にも同様なエピソードはありますが、この子のように自分で一歩を踏み出してくれたこと、本当に自分のいたい姿で過ごせるようになったことを目の当たりにすると、うれしいですし、活動をしていてよかったと思います。
※3 まちのほけんしつ
生きづらさを抱える人たちが安心できる居場所を作ろうと、前橋市で活動する2団体、LGBTQ支援の「ハレルワ」、不登校・ひきこもり支援の「アリスの広場」の共同プロジェクトで整備したコミュニティスペース
4.活動で意識していること
【事務局】活動を進める中で意識していることがあれば、教えてください。
自分のことを好きになれない人って多いと思います。特に日本人の場合はそのタイプが多い気がします。でも、誰でも好きなことをやっているとき、好きなことの話をしているときって、楽しいし、輝いているんですよね。それなので、なるべくその人の好きなことは何か、それって「まちのほけんしつ」でできることかもと、常に考えて接するようにしています。
「まちのほけんしつ」で成し遂げたいことは、その人が「自分の好きなことで食べていける」ようにすることです。もちろんどこかの企業に勤めるのでもよいけれど、それが難しい人もいて、そういった方が「自分で仕事を見つける、つくる」ことができるようになってほしいと思っています。今日も「まちのほけんしつ」内でネイルをやってくれている人がいますが、それも「その人の好きなこと」を実際に仕事にした事例の1つです。
【事務局】活動を進める上で「地域づくり」を意識したことはありますか。
一見、私たちの活動と地域づくりは結びつかないと思うかもしれませんが、生活するということは地域で過ごすことなので、自分たちが堂々と街で生活している、活動していること自体が地域づくりではないかと思っています。
また、私たちの活動は当事者だけではありません。まちの人と一緒にイベントをやったりしますし、地域には私たちの活動を見守ってくれている人たちがいます。こうした繋がりを通じて地域を感じることがあります。
5.メッセージ
【事務局】最後に読者に対して、メッセージをお願いします。
ハレルワは「群馬はすでに虹色である」というスローガンを掲げています。LGBTQの当事者や、LGBTQの味方だよと思っている個人や企業はすでに群馬中にいるはずで、その繋がりの輪を広げ、可視化していくことによって、LGBTQフレンドリーな地域をつくっていきたいと思い、活動しています。
地域・社会・学校どんな環境にもLGBTQの人は存在します。自分らしく居られる居場所を探している人、相談先を求めている人、あるいはそういう当事者に出会った人は、ぜひハレルワの輪に加わっていただければ幸いです。
(群馬県地域づくり協議会事務局 栗原、田辺、星野)