第3話 デラウェア
『みるくに食べてもらいたいから』
休憩中に届いたメッセージに顔がほころぶ。送り主は大学の同期であり、今も変わらず交流のある友人だ。
その夜、友人は仕事帰りにわざわざ私の家に寄って、葡萄を届けてくれた。無性に葡萄が食べたくなったけど、一人で食べるには量が多かったらしい。
ビニール袋の中を見ると、一房のデラウェアがいた。葡萄と聞いていたから勝手に大粒のものを想像していた。いや、友人は間違っていない。ただ私が頭の中でデラウェアを「葡萄」ではなく別のカテゴリーに分類していただけ。こういう発見は人生にささやかな驚きと喜びを与えてくれる。
房を掴むと、その密度に驚かされる。どの実もパンパンに張っている。もしや結構良い値のものなのでは? と思ったけれど、まあ、後で聞いてみよう。
お風呂上り。あらかじめ洗って冷やしておいた房と一緒に、別で小皿を用意する。皮を捨てるためだ。
リビングのローテーブルに座り、スマートフォンを横向きに置いて、お気に入りのチャンネルの動画をタップする。最近はDIY関連の動画にハマっている。
おっちゃんたちが協力して小屋を建てる様子を眺めながら、房から取ってひとくち。丸ごと口に含んで、舌で潰すように押し出すと、皮がツルリと剥ける。果肉は食べて、皮だけ口から出す。これの繰り返し。
おっちゃんたちが木材の切り出しが終わった頃、もうお皿の上に残っているのが茎だけだと気がついた。あっという間になくなってしまった。
デラウェアを食べるのは、「食べる」以外の良さがあると思う。集中と似ているけど、ちょっと違う。無心という言葉が近いかも。同じ動作を繰り返すからだろうか。
動画が終わって、次のオススメ動画が表示される。その上を割り込むように、メッセージ受信の通知。
『気がついたら、もうないなってた……』
どうやら友人もついさっきまで無心だったみたい。
今度のお祭りはいっしょに出店を回りたいな。
線香花火のような茎を見てそう思ったし、返信欄にもそう打ち込んだ。