スーパーヒーロー

 持て余す程の時間を手にした途端、抱いていたはずの欲望はあっけなく姿を消して、その場凌ぎで息をするような生活を繰り返すようになった。スーパーヒーローになりたいと前々から心の中で思っていたのに、いざ力を手に入れるともう夢が叶ったかのような優越感に浸ってしまう。その癖なにもせず、時間が過ぎて、もう自分はスーパーヒーローになれないのだと気づいたとき、周りは皆、スーパーヒーローになっていた。溶けた歯と狂った思考回路はまるで獣のように見えて、これ以外の甚だしい人間は在りはしないようにも思えた。重荷を背負った人間の最期は偽りのない丸裸なやさしさ。途絶えることのない悲しみの連鎖。透かしてみれば漏れなく善人。危うく人を傷つけるところだった。と、すべてを知った男が言った。

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