見出し画像

「あなたの鼻がもう少し高ければ」

2022/03/04
川上未映子,2022,新潮社,(2022年3月4日取得,https://www.shinchosha.co.jp/book/325626/preview/).

なんだかんだうだうだ言っていつまで経っても未映子読まない私に友だちが薦めてくれた。
え、おもろい。
文体もテーマも、横書き・スマホでブログみたいに読むテンションにすごく合ってる。

「トヨの大学のリアルの友達や知りあいは、最近は口をひらけば多様性とか自尊心とか、ルッキズムに反対しますとか、そんなことばかりを口にするようになっていた。人にはそれぞれの良さがあり、それは他人に決められるものではない。自分の価値は、自分で決める。トヨのリアルの友達がそういう感じのことを得意げに言ったりSNSに書き込んでいたりするのを目にするたびに、トヨは白けた。」

こういう美容論争って、参入すると偽善的で中身のない提言になるか、過激で人を刺すような発言になるか、どっちかしかないのかな。ジェンダー論の授業で紹介されてた井上章一『美人論』が面白かった記憶。現代はだれもが美人になれる時代だけど、だれもが美人にならなきゃいけない時代でもあって、美容を歓迎しても忌避しても、結局どこか無理してる。石田夏帆「我が友、スミス」も思い出すよね。

美容に対して取ってるスタンスや距離感は私とこの子たちではぜんぜん違うけど、マリリンの顔面に飛び散るラメのように、あ、わかる、あ、わかるよ、って思っちゃうような視線が作中にちらほら。小学校の友だちって、今どこで何してんのか、生きてんのか死んでんのかすら、ぶっちゃけわかんなかったりするし。

「トヨはネットで整形、美容アカウントを細かく追っているという自負から、彼女たちの生活や愚痴や交友や、人間関係に濃く触れているつもりで、色々なことに通じているような気になっていた。けれど、こうしてマリリンを目の前にすると、自分が現実的なことを何も知らないどころか、こういうときに適切な質問のひとつも思いつくことができなかった。水商売はともかく、風俗店で働いているかもしれないような友達も、マリリン級に整形をしている友人や知人だってひとりもおらず、これまでじっさいに会ったこともなければ話したことすらなかったのだ。」

え、…ね、そうだよね。ちょっと違うかな。
ジェンダーとかフェミニズムとか、消費社会とか性の商品化とか、けっこういろいろ勉強したけど、現実の目の前のひとりの大切な人を前にした時に、適切な言葉が自分の内側にひとつもなくて、あれ私ってなんのために今まで勉強してたんだっけって思ったことがある。無力感とか言うとすごくナルシスティックになるけど、とりあえず今この場で私は何の役にも立たないわってことがわかっていたから、あほの子みたいな顔してただ神妙にふんふん話を聞いてた。

女の子たちが美容戦争に取り込まれてる背景って、インスタ映えとか承認欲求とか、女の子たちの内側の問題ばかりが槍玉に挙げられるけど、美容に投資するには絶対にお金が必要で、これもまた自らの性を売り物にしてる女の子サイドの問題ばかりが取り上げられるけど、それを買う人・売る人については殆ど論じられないのはなぜ?
この小説がコロナを踏まえて書かれているのはとても重要なことだと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?