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『ブルーバレンタイン』

2022/04/04
主演=ライアン・ゴズリング,ミシェル・ウィリアムズ
監督=デレク・シアンフランス
脚本= デレク・シアンフランス,ジョーイ・カーティス,カミ・デラヴィーン

寝るまでの2時間、進路や研究のことも考えたいけどもう今日は疲れたや、恋愛映画を観よう!と思ったのに結局けっこう頭使って観ましたわ?
『花束みたいな恋をした』『ちょっと思い出しただけ』ビフォア3部作などの話をしていた時におすすめされた映画。説明も、仕事を頑張る女と家庭を大事にしたい男、みたいな書かれ方だったから、上昇志向と現状維持とか、現実と理想のすれ違いの話かなと思っていたけれど、けっこう多方面から社会的な作品だった。
いろんな角度から読める、テーマが並走してるけど、私は性愛が連れてくる男性(たち)の暴力性に(一人の)女性が抑圧される話だと思った。(私の問題関心に引っ張る。)だから私の中でこの作品の位置付けは『スワロウ』とかの方が近いかも。

祖父母や両親の夫婦関係からシンディの夫婦観が垣間見える。ディーンは中卒で両親が離婚しているなど、二人が属する社会階級には大きな差がある。それが設定ありきのキャラクターという表れ方ではなく、まずセリフや行動からキャラクターが見えていて、あとから設定が出てきたときに納得感が積み上がる構成になっていてとても巧い。

『Before Sunrise』でも思ったけど、日本のナンパとは違う口説く文化におおぉってなるね。
特技を聞かれて歴代大統領の暗記歌を披露するシンディに笑ってしまった。私もこれから特技聞かれたら中国王朝の変遷の歌披露しようかな。やばすぎ。

君のようなスーパーモデル風の女が医学とはね…と言われている。それ以上に気にすべきは、過去の時間軸では医者志望しかも前途有望と言われていたのに、現在の時間軸では看護師になっていること。わざわざ言及しないがしかし厳然と存在する社会構造を描いていて巧い。昇進の話を持ちかけられていたけど、蓋を開けてみれば口説かれていただけというのもあとで出てくる。も、さいあく。
ちなみにこの映画をおすすめしてくれたのはスーパーモデル風の医学部女子です。

マッチョな元カレ…。ディーンが娘を溺愛してたり、シンディが偶然元カレと会ったと聞いて激怒する(「奴」と呼ぶなど)もしっかり伏線で、娘は元カレの子どもなのか…というのがあとでわかる。
宗教などによっては中絶の選択肢がない人もいる、しかし選択肢があったとしても、向こうから勝手にやってきた重すぎる責任を前に、選択しなきゃいけない状況に追い込まれるのがあまりに理不尽で。
元カレのレイプで妊娠したことをシンディがディーンに打ち明けたのも、言わないとフェンスから飛び降りようと脅迫的な話させ方だった、それもどうかと思ったが、とにかくあの時ディーンはシンディの味方になってくれた。元カレからディーンへの報復がひどくて肝が冷える。

しかしだよ。のちの展開に、もう、おぉんってなる……っていう話を今から書きます。

序盤、元カレにレイプされた後のシーンで祖母に読み聞かせていた本が、終盤、病院でディーンと口論になった後の伏線になってると思ったのでメモした。
「近づいてくる人が怖いことを彼には言いたくなかった 彼に優しく 頬をなでられ 彼女の心臓は高鳴った 髪に彼の指が 優しく触れる 彼はキスを 彼女も望んでいた なのになぜ 断崖から 落ちそうな気分なのか 唇が重なり 彼女は考えるのをやめ ただ 感じた 触れる唇の優しさ 彼の腕の力強さ その腕に抱かれ 彼の鼓動を感じた まるで 崖から落ちるように 真っ逆さまに恋に落ちた」
官能的で美しい表現の中で"崖から落ちる"の意味がすり替わっていて、これすんごいと思った。
そして、現在の時間軸でディーンがシンディに自分たちの子どもを作ろうと迫るシーン、「きれいな口を閉じてろ」ってセリフ、これもすんごい。「きれいな口」でもなく「口を閉じてろ」でもなく、「きれいな口を閉じてろ」。

ディーンとの関係がうまくいかなくなってきて、シンディの職場で口論になるのだけど、まずドアを閉めないで…!ガラス張りとはいえ密室こわいのよ。そしてこれは男女関係なく、単純に目の前の人間に大声出されるってこわいよね。「男らしいところをみせてやる」って言って部屋を荒らし出すディーン。まってまって男らしさとは暴力的なことなの???
止めに入った上司をディーンが殴る。争う男…デジャヴ…。元カレとディーンが争っていて、しかし妊娠してるのはシンディ。ディーンと上司が争っていて、しかし職場を追われるのはシンディ。この構造、重なるように作ってるよねぜったい。

後日、もう一度話し合う時、ディーンは「小さな娘のことも考えないと」「自分の都合だけじゃないか」「俺は家族のために闘ってるだけだ」と言っている。
ディーンがシンディを愛しているのは本当に本当で、「おいで」って言って抱き寄せるんだけど、シンディはnononono...と言っていて、私、
おいで、が
こわいんだってば!
ってメモしてる笑笑
こうなってしまうともうディーンは元カレと同じ、シンディにとっては「近づいてくる人が怖い」になっちゃう、その接続が綺麗でとてつもなく悲しかった。

別れてシンディが娘を引き取って、娘はでもパパっ子だから泣いて泣いて。一番最初の、愛情深い父親と現実的に生活を進める母親の描写から、なんとなくこのシーンを想定していた自分がいたから、ラスト本当にそのようになっていてふるえた。

2010年の作品かあ…。

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