「 そよ風屋のウサギ 」
里山の上へ登ったところに、
ウサギの兄弟がくらしていました。
夜になると、
ウサギたちの住む巣穴から
林をこえた遠くの方に
オレンジの明かりが灯るのが見えました。
「いつもあそこはお祭りがあっているのかな?」
好奇心の強いウサギたちは、
行ってみたくてたまらなくなり、
明かりをめざして林を駆け跳んで行きました。
跳んで跳んで、ヘトヘトになる頃、
目の前に大きな建物があらわれて、
木や、塀で囲まれた向こう側に
あのオレンジの明かりが光っていました。
ウサギの兄弟は耳をピンとたてて、
辺りに気を配りながら
塀のすき間をすり抜けると、
窓のまえで背伸びをして
そっと覗いてみました。
すると驚いたことに!
大きなタオルを舞う様な動きで、
ぐるりとひるがえしている人が見えました。
タオルは、まるで生き物みたいでした。
そのまわりにはこれまた驚いたことに!
裸ん坊の人たちが木の板の段々に座り、
笑い合ったり、じっと目をつぶったりしていたのです。
「あぁ、ここはとっても暑がりな人たちが、
あおいでもらいにくるんだな。」
兄さんウサギが言いました。
「あんなふうにかっこよく、
舞うようにオレたちもやってみたいな。」
弟ウサギも目をキラキラさせて言いました。
その日から、
ウサギ兄弟は葛の葉っぱや柿の葉を、
ギュウギュウ重ねてくっつけた
大きな扇をこしらえて、
あの夜見た、あおぎの舞の練習に励んでいました。
そんなある夏の日、ウサギ兄弟のもとへ
フラフラしながら黒猫がやって来て、
「その素晴らしいそよ風、少し分けておくれ。」
と頼みました。
ウサギたちが張り切って舞いながらあおぐと、
黒猫は幸せそうにウットリしてお礼を言うと、
元気な足取りで帰っていきました。
それからというもの、このウサギ兄弟の評判を聞きつけて、
どこからくるのかと思うほどの黒猫や黒犬たちが、
「そよ風屋はここですか。」と、やってきたのです。
みんな夏の光が強すぎてカラダ熱くなっていました。
ウサギの兄弟が舞いながらあおぐ間、みんなウトウト、
ウットリと安心して、そのあと、元気になって帰っていくのでした。
その夏の間、ウサギ兄弟の“そよ風屋”は大忙しでした。
(*ウサギ兄弟があの日見たすてきな人は、
サウナの中で熱風を送る熱波師という人だそうです。
ウサギたちは今でもそれを知りません。)
熊本の小さな集落で、ひょうたんを育てながら、 「お話とらんぷ」をテーマに、ひょうたんの らんぷをつくっています。 イヌ、ネコ、山の暮らしの風景と、 らんぷのことを、 少しずつ書きます。