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あれ、重力ってなんだっけ

失敗に勇気づけられるスポーツがある。

ボルダリングだ。

ざっくり言えば、ゴールを目指し、壁をよじのぼるスポーツ。

シンプルだが、このスポーツにはシンプルなハッピーエンドが待っているっていうわけではない。

いつ行われていたかも知らなかったボルダリングの世界選手権の再放送。

私のザッピングは、そこで止まった。

そこにうつる人は、必死に掴もうとしていた。

壁についた変な形をしたでっぱりたちを。それは、ホールドというらしい。

こんなの登れないでしょというような無茶苦茶なホールドの位置や壁の傾斜。そんな無茶に選手たちは挑んでいく。

次のホールドを掴めるかどうか、これが掴めなきゃ落下してしまうというハラハラドキドキに私は集中力を吸い付けられた。

がんばれ、がんばれ、私は釘付けになって応援した。

がんばれば、手を伸ばせば、つかめる。

そう思っていた。今まで、散々そう教えられてきた。

夢は、努力すれば、叶う。

だけど、選手は、落下した。

大勢の観衆の前で、思いっきり失敗した。

一度、天を見上げたあと、もう一度、起き上がり、自分の前に立ちはだかる壁を見る。

戦略を練り直す。

そして、また、挑む。

自分を引きずる重力を振り払うみたいに、ムリだろこれ、を飛び越えていこうとする。

自分の体をぴょんぴょんと操る選手たちをみていると、不思議だ。

私まで体が軽くなる。

あれ、私を押さえつけていた重力ってなんだったっけ。

人の目とか、安定とか、何に縛り付けられてたんだっけ。

思いっきり失敗するのを何で恐れているんだろう。

最終的に、ゴールのホールドを掴んで、トップでガッツポーズをする選手もいれば、諦めて、応援客に頭を下げ退場する選手もいる。

どちらの選手も、手を伸ばそうとした。壁に挑んだ。

だから、どちらの選手にも拍手が送られる。

それに、諦めたからって、次の壁まで諦めたわけじゃない。むしろ次の壁を諦めていないからこそ、諦める。

次の壁を前にしたとき、また、手を伸ばす。

どれほど頑張ったって、どれほど力を込めたって、

どれほど作戦をねったって、どれほどつかもうと手を伸ばしたって、

ダメかもしれない。

人前で、失敗する姿を晒すかもしれない。

だけど、手を伸ばさない理由はないだろう、

そんな風に思わされる。

ボルダリングは、一人ずつ壁に挑むからこそ、これは、誰かとの戦いでもあるが、何より自分との戦いなんだということがよくわかる。

世界中の目にさらされてるわけでもない私は、何を恐れてるんだ。

私を押さえつけていたものは、私にかかってた重力は、私だ。

努力は報われるとか、じゃなくて、

まず自分と、戦おう。手を、伸ばそう。

そう思わせてくれるから、私はこのスポーツから目が離せない。

がんばれ、がんばろ。

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