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【ショートショート風エッセイ】久々のセルフケア
2025年1月10日。
「あー、疲れた疲れた…」
石川麗子(いしかわ・れいこ)は、5ヶ月前に生まれた娘の梨花(りんか)を寝かしつけ、買ったばかりの140cm×200cmの大きなプレイマットに横たわった。
「赤ちゃん用のプレイマットって、何だかヨガマットみたいね…」
そう思った麗子はプレイマットに座ると、ストレッチを始めた。
「あー、気持ちいい…!久々に体を伸ばしたわ」
気持ちよかった。体がスッキリした。
柔道整復師の資格を持ち、梨花が生まれるまではマッサージサロンに勤務していた麗子。子育てが始まってから、自分の体には全く気を遣えていなかった。
肩こり、腰痛、膝の痛み。以前はお客さんから聞くだけだった悩みが、全て自分に降り注いでいる。
「んーーーー」
大きな声を出しながら、麗子はストレッチを続けた。
「どうしたの麗子」
夫の光太郎(こうたろう)が、風呂からリビングに戻って来た。
「あのね、久しぶりにストレッチをしたの。梨花が生まれてから全然やってなかったから気持ちよくて」
「俺が小さい会社だから育休取れなくて、麗子には負担ばっかりかけてるからな、疲れが溜まってるんだ。いつと本当にありがとう」
光太郎の会社は正社員わずか4名の小さな学習塾である。光太郎が抜けてしまうと授業が回らないため、フルタイムで働きながら子育てをすることになった。
「本当にいい会社なんだけど、育休取れないのが玉に瑕だな」
「でも、午前中はずっと家にいてくれるから、梨花はパパのこと大好きよ。私もゆっくり過ごせるし」
何か言おうとしたその時、光太郎は腰を押さえてうずくまった。
「いててて、そういや俺も梨花が生まれてから整骨院に全く行ってないや。ストレッチもサボり気味だし」
セルフケアができていないのは、光太郎も同じのようだ。
「梨花のプレイマット、ストレッチにちょうどいいのよ。光ちゃんもやってみたら?」
両親が2人で静かにストレッチをしている時、梨花はベッドですやすや眠っていた。
「ふぇ…、んんん」
「あれ、梨花起きたのかな?…いや、寝言か」
何かを感じ取ったのか、梨花も寝ながら両腕を伸ばした。