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とあるバンドマンの官能夜話~第十四夜~「妬み嫉み」

昔バンドマン>普通のサラリーマン>五十過ぎて倒産解雇>独立起業>バンド復活>ライブバーのマスターと言うまっとうな人生を歩んでいる筆者です。

COVID-19の猛威は緩むところを知らず、昨年、今年と続けざまの緊急事態宣言の発出を受け、今回も休業せざるを得なくなりました。行政からの要請はアルコールなし、カラオケなしの時短なら、20時までは営業出来ますが、うちのようにお酒を飲む店で、普段はカラオケ営業で20時オープンのお店の選択肢は休業しかありません。

昨年の休業要請の時もそうでしたが、お店があって、毎日来て頂けるお客様も居る中で営業をすることが出来ないと言う状況は心にダメージを与えられます。うちのように従業員を雇わずに夫婦でやっているような小さなお店なら、給付金が出るなら休業していても経済的にはダメージはありませんが、メンタルがやられてしまいます。

コロナ禍の街

こんな状況の中、周りのお店もチラホラと閉店の話も舞い込んで来ました。店主自身がCOVID-19に感染してお休みしていた店は、営業再開後もイメージを払拭出来ず客足が遠のいてしまうようですし、少し規模の大きなお店で従業員を何人か雇っていたり、箱が大きく家賃が高そうな店は給付金だけでは営業を継続していくことが困難な状況になってしまうことが容易に想像できます。

非常に残念なことですが、ワクチンが希望者全員に接種出来るようになるまでは、閉めざるを得ない店もこれからどんどん増えていくと思われます。それまで何とか頑張らねば!

さて、表題の「妬み嫉み」、読み方はわかりますか?「ねたみそねみ」と読みます。ネットの辞書によると、「妬み嫉み」とは他人を羨ましく思い、その分だけ憎らしいと思う感情。「嫉妬」と同義。「妬み」と「嫉み」はいずれも羨望と憎しみの入り混じった感情を表す。「妬み」は羨ましく口惜しい、腹立たしいといった意味合いが若干強い。「嫉み」は羨ましくて憎い、呪わしいといった意味合いが若干強い。とのことです。

今日の本題は、コロナ禍の中、人間の妬み嫉みを筆者自身や家族が受けて、傷つき、落ち込み、そこから再び立ち上がるお話です。

うちのお店がオープンする2年程前に同じ業態の先輩店が近所にオープンしていました。普通に考えるとライバル店ですね。でもお互いに店が休みの時や早じまいした日には相互に店を訪れたり、周年の時は花を贈ったり、大きな会場を借りて一緒にライブをしたりと、とても仲良くさせてもらっていました。その店のマスターとは共通点も多く、2人ともに昼は小さな会社の経営者で、昔プロを目指したミュージシャンで、未だに楽器をそこそこ演奏すると言うことで、良いお付き合いをしていたと私は思っていたのです。

そしてもう一人の登場人物が、この2つの店のちょうど中間位置にある、大きな店のオーナーです。うちのお店は着席キャパ20位、上の先輩店は着席キャパ10位、この大きな店は着席キャパ100位の規模です。この大きな店は広いフロアを社交ダンスに使っていたのですが、コロナ禍の始まる少し前に上の先輩店に相談して、ロック系のライブハウスとしても使えるように音響や内装を変え、先輩店のマスターが顔が広いことを利用してプロモーターとなって、メジャーなミュージシャンやバンドのライブイベントを開催して集客するのが狙いでした。

ステージ1

先輩店のマスター曰く、「損得抜きで地元が賑わえば周りの店も活気が出る」と言うことで、うちの店もその心意気に賛同してイベントを入れると言う方向で協力していくことになりました。でも改装をしてすぐにコロナ禍が始まり、イベントは中止、先輩店のマスターは工務店を経営していて、その大きな店の内装も音響も請け負ったそうですが、大きな店のオーナーはすぐにその代金を支払えない状況になってしまったそうで、裁判沙汰になってしまいました。

そんな状況ですので、1回目の緊急事態宣言の発出の頃には大きな店のオーナーは家賃も払えない状況になったそうです。そしてお店はとうとう閉店してしまいました。店は閉まったのですが、店の上層階が住居になっていて、半年間、家賃を払わずに居座ったままだったそうです。先輩店のマスターは未払いの借金の形に自分が納入した音響機材や照明を引き上げたそうですが、かなりな額の損害が出たようです。

そうこうしている中、その店の入っている建物自体が別の人に売り渡されました。半年居座った大きな店のオーナーもそこを立ち退きました。後で聞いたことですが、新しい建物のオーナーが生活保護や新居の手配までして、立ち退きに遺恨を残さないようにしたと言うことでした。なかなか出来ることではないですが、自分の持ち物になる建物に負のエネルギーを受けたくないといったところでしょうか。

そして新しいオーナーから、共通の知人を介して筆者のところに、その大きな店を借りてくれないかと話が来ました。私は先の先輩店のマスターと退去したオーナーとの間のトラブルを知っていましたので、先輩店のマスターに相談に行きましたが、「あの場所ではいやな思いをしたので、自分があそこで店をやる気はない」とのことでした。その相談の後もずいぶん悩みましたが、広い店に移転すると言うのは前々からの夢でしたし、店舗の上層階が住居になっていると言うのも通勤の面でとても魅力的でした。

夫婦でかなり話し合いましたが、それぞれがずっと以前から、「今よりも広い店で路面店があれば移転もありだね」なんて話していましたので、コロナ禍の中ですが大きな店に移ることを決定しました。建物のオーナーさんと契約書を交わし、礼金を振り込んで契約を実効させた後、すぐに先輩店のマスターに移転を決定したと報告しました。

その報告に対して先輩店のマスターは長文の激怒メールを返して来たのです。

メールの内容は「前の店のオーナーとのトラブルがあることを知っているあの場所で、お前達が商売をすることにどうしも心が収まらない。お前達とは縁を切る、自分の店のスタッフや客にも、お前達の店には出入りしないように言う。返信不要」との内容でした。

先方から縁を切られることには何の不都合もないのですが、近所のお店と言うことで、両方の店に常連化している共通のお客様が沢山居るので、お客様を巻き込むのは困ったことだなと思いました。店同士の問題で常連のお客様に気を遣わせるのは筋違いですし、何よりも前のオーナーとの未解決トラブルの怒りの矛先をこちらに向けられるのも大きな筋違いですが。

彼の怒りが筋違いなことは、冷静に物事を考えられるお客様なら解ってもらえるだろうと言うのが私たちの考えでしたが、先のようにお客様に気を遣わせるのは嫌なので、先輩店のマスターに一番近く、うちの店にも周に2,3回は出入りしている先輩店のチーマスターと、先輩店のマスターとは昔からの知り合いと言う、近隣の飲み屋では知らない人が居ないと言われる女性で、私たち夫婦とは海外旅行を含めて2度の旅行に行った仲なので、きっと何らかの対応をしてもらえると言う希望が持てる人物でした。

男の嫉妬

これは男の嫉妬だなと思いつつ、この二人を介して先輩店マスターときちんと話しが出来ればと言うことで二人に仲介をお願いすることにしました。先輩店チーマスターには私から、女性の方は嫁さんからお願いをしましたが、両人から言下に断られてしまいました。更に脅迫めいた言葉まで返されたのですが、既に先輩マスターからきつめの通達が行っていたのだと思います。私は縁を切られることは別に痛くもかゆくもないと言う考えでしたのでダメージはあまりなかったのですが、うちの嫁さんは親友だと思って付き合いをしてきた人物から脅迫めいた言葉まで返されたので、かなり精神的に参っていました。

そんな中でも契約や、新店舗の改装や電気工事に並行して引っ越しの準備は粛々と進み、新店舗のオープンを迎えることなりましたが、嫁さんは先輩店マスターが何か直接的な嫌がらせをしてくるのではないかと、小さなことにも恐怖を感じる程のメンタルダメージを受けていました。引っ越し先で家族に危害を加えられるかもしれないので、防犯カメラや人感センサーのブザーやライトを新店舗兼新居につけて欲しいとまで言い出しました。それで嫁さんの気が収まるならとできる限りのセキュリティーは設置することにしました。

この間、一連の話は誰にも話さずに私たち夫婦胸の内にしまっておいたのですが、複数の常連の方から、先輩店マスターが近隣の店を回って、私たちが先輩店との約束を破って、先輩店マスターに迷惑を掛けていると言うような内容のことを言って回っていると言う話を聞くようになったのです。そんなお話を頂いた常連様に事実関係を説明したところ、先輩店マスターが私たちの悪口を触れた回ったお店に、正しい事実関係を話しに行って頂いたりもするようになりました。

私たち夫婦も営業を兼ねて、毎日のように近隣のお店に食事に行きますので、私たちが常連として行っているお店のオーナーさんからも先輩店マスターが悪口を触れて回っていると言う話が耳に入るようになりましたが、どのお店オーナーさんも、冷静に事実を見られて、我々が筋違いの怒りを向けられていると言うことを理解していると言うことが解ってきましたし、それらのお店のオーナーさんからは沢山の励ましを頂きましたので、嫁さんの精神的不安もかなり和らいで来るようになりました。

人の妬み嫉みと言うのは怖いものですね。私は一人っ子で、どちらかと言うと人間関係の機微に疎く、のんびりしている方なのかもしれません。自分では先輩店マスターとはある程度の距離感で仲良く接していたと思っていましたが、今回の件で思い起こしてみれば、先輩店の近所に私たちの店がオープンした時から快く思われていなかったのではないかと言う細かな事柄がいくつもありました。例えばうちの店に置いてあるドラムをグレードアップした時は、翌日に先輩店でもドラムの入れ替えがありました。また、あるうちの店の常連のお客様が先輩店に行った時には「何であんな店に行くの?」と訊かれたそうで、そんな話もこちらが仲良くしていると思っていると見えてこないことでしたが、今思えばなるほどと言う感じがします。

先輩店からすると同じ業態の近所の店は客を取られるライバル店と考えるのが当たり前ですね。そんなことも考えずに無神経に先輩店と接して来たのかもしれません。何か嫌なことがあった時には自分にも原因があったのではないかと振り返る必要があると今回つくづく思いました。

コロナの緊急事態宣言で、うちの店もその先輩店も休業が続いていたのも不幸中の幸いかもしれません、「人の噂も七十五日」と言うように間違った情報はどんどん過去の物となって消えていってくれることを祈るばかりです。

第十四夜 了





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