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棺桶ロック
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「棺桶ロック」
ステージ上でスポットライトを浴び、坊主頭の男はギターを弾きながら叫んでいた。その姿はイースタン・ユースの吉野寿をリスペクトしているようだった。坊主頭の男は実家が新潟県にある寺の息子で、通っていた駒澤大学でも仏教を専攻していた。大学を卒業した後は都内の寺で修行僧として勤める一方で、大学の同級生とバンドを組んで週に1回程度ライブハウスで歌っていた。坊主頭の男は人間椅子の和嶋慎治が大学の大先輩にあたり、それがきっかけで大学在学中に片っ端から聞き漁った。ハード・ロックを歌っているのに、まるでお経を唱えているかのように滑らかに聞こえ、坊主頭の男はこの時ロックに目覚めたのだった。坊主頭の男はイースタン・ユースもやはり好きで、実家の寺にいた僧侶の顔が吉野寿と似ていた所から興味を持ち、坊主頭でもここまで格好良いのかと憧れを抱くようになった。ライブも終盤になり坊主頭の男が「最後の曲になりました、聞いてください」と言ったら、彼は念仏を唱え始め、他のバンドメンバーもそれぞれ楽器など演奏せず合唱をした。他の客も合唱をしていた。この光景こそが宗教だと思った。