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シンデレラコンプレックス
第1話 『乙女は薄目を開けて王子を待つ』4
わたしの好きなひと・・・・
それからなんとなく、ナナ江ちゃんのところには行けなくなってしまった。
幸い、ナナ江ちゃんがいるお店は駅ビルの2階だから、意識して避けることができた。我ながら、心が狭いと思う。
とりあえず、レポートが「再提出になった」という理由を作って、どこかでばったり会ってしまった時にはそう言い訳しようと準備していた。嘘をつくのは慣れている。でも、
「なんでこんなにつまんないんだろ」
(やっとナナ江ちゃんと親しくなれたっていうのに…)
そう、わたしがナナ江ちゃんと親しく話せる関係になったのは、高校を卒業して、大学に通い始め、この職場を見つけてからだった。高校時代も話はできたけれど、連絡先を交換するほどの近しい間柄ではなかった。
わたしはずっとナナ江ちゃんに憧れていた。
1年の時から同じクラスで、ナナ江ちゃんのまわりにはいつもだれかしらひとがいて、なんだか守られているような感じで羨ましかった。実際、ナナ江ちゃんにとって不都合なことや、ナナ江ちゃんが困るようなことが起これば、必ずだれかが庇ったり変わってあげたりして、本当にお姫様のように大事にされていた。だけどナナ江ちゃん本人は全然エラそうじゃなくて、控えめで、世の中にはそんな風に自然に守られている人種っていうのが存在するのだなと思ったものだった。
「ユナ…」
え!?
「…ちゃん。で、間違いなかった?」
ナナ江ちゃんよりもっと会いたくない相手に出くわしてしまった。
「店、ちょ…うさん」
いきなり下の名前を呼ばれ、ちょっとびっくりした。
「学校の方忙しいの? それとも、バイトかな」
「え、ぁ…別に」
「ほら。たまに集中的に来ないことがあるから」
「あぁレポートで…」
(って、こいつに言い訳しなくてもいいじゃん)
自分を取り繕いながら、我ながら子どもじみた態度をとっていることが途端に恥ずかしくなった。
「いつも、無駄にお邪魔してすみません」
「はは…。そういう自覚はあるんだ」
(やっぱり、邪魔だと思ってたんだ…)
「すごいね、自分で学費稼ぐって」
「え…」
(ナナ江ちゃんはそんなことまで話してるのか…)
そう思ったらなんだか、負けた気がした。
ナナ江ちゃんも普通の女の子だった。
好きなひとには、なんでもしゃべってしまう…ただの色ボケなのかとがっかりする。でも、それが恋?
「ナナ江ちゃん…」
「ん?」
「付き合ってるんですよね?」
「そうだけど?」
(そうだけど?)
でも、事実なんだ。
「店長さんはしあわせものだ。ナナ江ちゃんはとっても女のコらしくて、本当に素敵…」
(わたしなに言ってるんだろ…このひと)
「ありがとう」
なんだかその言葉にムカついた。
「とにかく、大事にしてあげてください!」
(こんなことが言いたいわけじゃないのに、なに言ってんだろ。余計なお世話)
「ユナちゃんは、本当にナナ江ちゃんが好きなんだね」
(やな言い方をする)
「大事な友だちだから!」
歩きながら話していたら、いつの間にかお店の前に誘導されていた。
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