『現実的絵本』
きらちゃんは小学2年生
最近「ゆううつ」という言葉を覚えた
それは最近、学校で飼っていたうさぎさんが天国に行ってしまったから
もう、おばぁちゃんだったから…仕方ないんだけれどね
それを聞いてから、おうちで飼ってる犬さんも「いつかいなくなっちゃう」って思ったら、なんだかモヤモヤして仕方がないの
ところで最近、
担任のえーこ先生が「さんきゅう」と言って学校にこなくなった
「さんきゅう」って、ありがとうって意味だよね? なぜ?
おともだちのまひるちゃんが笑うの
「産休」って、赤ちゃんを産むためにおやすみすることだよって
まひるちゃんは、なんでも知っててすごいなぁ・・・・
そんなまひるちゃんの口癖は「そんじょそこらのおこさまじゃないわ」なの
そんじょそこら…って、なに?
それでね、
えーこ先生の代わりに、時々教頭先生が授業をしてくれることになったの
とっても優しいおじいちゃん先生で、なんとなくだけど、おうちの犬さんを思い出すの…えーとね、にこにこが、おなじだから
あれ? 教頭先生もいなくなるの?
教頭先生は「さんきゅう」とは言わなくて、春になったら「たいしょく」っていうのをするんだって
「たいしょく」したらもう学校の先生じゃなくなるんだよね
「まひる、教頭先生きらーい」
「どうして?」
「だっておじちゃん先生だし、なんかやだ」
「ふーん」
「きらちゃんもでしょ?」
「え? あ、うん…」
まひるちゃんは、よく「きらちゃんもでしょ」「きらちゃんもだよね」って言葉や気持ちのおそろいをしようとするの
でも本当はね、きらちゃんは教頭先生が好き
犬さんに似てなくてもすき
でもまひるちゃんに「きらちゃんも…」って言われると、なにも言えなくなっちゃうの。だって「ちがうよ」って言ったら、まひるちゃんが泣いちゃう気がしたから
「早く退職しちゃえばいのに。ねぇきらちゃん」
「え、ぅ、うん」
学校の帰り道、まひるちゃんは必ず1回はいうのでした
きらちゃんは本当はやめてなんて欲しくないから、いつも変な返事になっちゃう。だけど1度だけ「なんで?」って聞いてみたことがある
そしたら、まひるちゃんが
「だって、あの年まで教頭しかできずに退職なんてうだつの上がらない男…ってママが言ってた」
「うだつ?」
きらちゃんにはちんぷんかんぷんだったけれど、物知りのまひるちゃんも、本当はなんのことだかわからないんだって
「でも、ママ、いやーな顔して言ってたから、きっと悪いことよ」
うだつって、悪いことなの?
「ねぇ犬さん。今度、バレエの発表会があるの。犬さんにも見てもらいたいなぁ」
きらちゃんは犬さんのご飯の時間になると、むしゃむしゃ食べてる犬さんの耳元にいつも話しかけてた。犬さんはガツガツ食べながら、時々「ん?」って顔をしてきらちゃんをみる。そしてにこにこってするんだよ
犬なのに「にこにこ」って思うけど、だってそう見えるの
きっとまひるちゃんに言ったら、笑われちゃうね。だからいわない
「犬さん、すっかりおじいちゃんだね。幼稚園の頃は一緒にかけっこできたのにな…」
きらちゃんは、ちょっぴりさみしくなりました
「どこにも行かないで! 犬さん。教頭先生のなにが悪いの? 好きって言っちゃダメなの?」
体育の時間にかけっこしてたら、男の子とぶつかって立てなくなっちゃった
そしたら教頭先生がひょいってきらちゃんを抱えて保健室まで連れてってくれたの
「ねんざです」って言われたけど、よくわからなかった。でも、足をつくとね、ズキンズキン…って、いうから、その日は大好きなバレエのおけいこができなかった
「発表会でられないね」って先生が言う
でも、きらちゃんはあきらめたくなかった。今度の発表会は初めてひとりで躍らせてもらえるんだもの
だって、一生懸命練習したんだもの
「一生懸命、練習したの…だから、出られないなんて言わないで」
きらちゃんは先生を説得した。その変わり、発表会まで「練習は禁止です」って!? それじゃぁ意味がないじゃない!
練習はダメって言われたけれど…「練習は一度でも休んだら体がなまる!」って先生が言ったのよ
きらちゃんは、バレエのお稽古のときはみんなの練習を見ながら曲を聞いて「イメージトレーニング」っていうのをしていたけれど、時々体が動きそうになってむずむずしてた
だからおうちに帰ってからお部屋でね、少しだけ練習していたの
バレエの発表会の少し前に「痛くなかったら練習していいよ」って、やっとお許しがでた。でもね・・・・
ピケターンからのシェネが上手に回れなくなっちゃったの!!
だから、発表会まで必死で頑張った。前日の通し稽古でもゆらゆらしちゃって、みんなにくすくすされている気がして悲しくなった
同じ曲を踊るめいちゃんが
「これじゃぁわたしの方が上手ね」なんていうのよ
発表会の当日・・・・
「どうしたの? きらちゃん。練習うまくいかなかったのかい?」
「教頭先生。どうしたの?」
「体育の時間、先生の不注意でケガしちゃったからね。きらちゃん、練習ができなくなるって元気がなかったから。心配で見に来ちゃったよ」
「見に来てくれたの?」
体育の時間にケガをしたのは、教頭先生のせいじゃないのに
心配して見に来てくれた・・・・
きらちゃんはとっても嬉しくて、ちょっと泣きそうになった
「犬さん…うぅん。教頭先生、失敗してもちゃんと見ていてくれる?」
「ちゃんと最後まで見ているよ。大丈夫、練習頑張ったんだから」
「うん、一生懸命練習したの。初めてひとりで踊るのよ、フロリナ王女のバリエーション。教頭先生が見ていてくれたらきっと失敗しない」
教頭先生。犬さんの代わりに、ちゃんと見ていてね・・・・
きらちゃんはドキドキしていたけれど、失敗するかもしれない不安は、いつの間にかなくなっていました
発表会が終わったら、ちゃんと言おう
「きらは、教頭先生がスキ…」
いかがでしたでしょうか?
こちらは『娯楽ないみ』さんの描く「現実的マンガ」の中に出てくる犬さんと犬ちゃんをモデルに書かせていただきました