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蜜月の刻(とき)

インタビューの人選には、予想通り手間取った。


官能小説家:朴木える
「昔、主人に原稿を無くされたことがあるのよ。その時主人は『プロなんだからもう一回書けるだろ』って言ったわ。…えぇ、自分の作品ですからね、おおよその内容は把握しているわ。でもね、短編小説ならまだしも、文庫本1冊となるとねぇ…」

「で、すよね?」

そんなわたしを見かねた編集長が「最初だけ見繕ってやる」といってやっと紹介してもらった最初のインタビュイーは、これから「AV男優と打ち合わせ」の為たまたま立ち寄った…という、作家さんだった。
官能小説作家だという彼女は、イメージに反し、全身黒づくめで、首も、手首も、足首すらも見えない一切露出のない、黒いポッキーのような女性だった。戦略なのか元からの趣味なのかは解らないが、つやっつやの唇が印象的ではあった。

「それで、どうなさったんですか? 原稿」

「別なものを書きました。プロなので『なくしました』とは言えませんものね」

「ですね。…じゃぁ、その時の作品は」

「記憶の産物にしかすぎません」

「はぁ・・・・」

なかなか話を広げられない。
インタビューの内容は先方も聞いて承知しているはずなのに、なかなか話を持っていけない。そう言えば自分は、話し上手でも聞き上手でもなかったことを思い出す。

これはずばり聞いて行かないといけない感じなのかな?

なにせ未経験のことに、てんぱっていたこともあるが、よくよく考えてみれば、インタビューの仕方すら知識のないわたしは、場合によっては相手を不快にさせるかもしれないことに、いまさら気づいたのだ。




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