連載『オスカルな女たち』
《 秘密の効用 》・・・9
「それが困らせてるとは、思わないの?」
うつむいたまま、織瀬(おりせ)は動揺を隠せない。
「まぁ…。そうですね」
「もう。あなたって素直なんだか意地悪なんだか…」
(涙が出そう…。来なきゃよかった…)
「今さら、隠す必要もないんで…」
「余裕、なのね…」
(こっちは心臓が飛び出しそうだっていうのに…)
「そう思いますか…?」
そう返す真田の言葉はいつも通りに思えるが、視界の端に捉えたハンドルを持つ手が、わずかだが震えているようにも見えた。
「冷静でいられると思いますか?」
「わ、解らないわ…」
自分のことで手いっぱいなのに、なにを理解しろというのか。
(そっちこそわかってない…!)
だが、真田は構わずに続ける。
「あの日、うちに来てくれたんですよね?」
間髪入れず、単刀直入に攻めてくる。
あの日確かに織瀬は、つかさと『kyss』を目指していた。それはそれとしても「答えたくない」が本音の織瀬は、ただ黙っているしかなかった。
「織瀬さん…」
「…だったとしたら? なに?」
織瀬は小さく溜息をつく。
いいなと思ったら応援しよう!
いつもお読みいただきありがとうございます
とにかく今は、やり遂げることを目標にしています
ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです