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「はぁ…」 なにもする気がしない。 気分はまるで出がらしのお茶、もしくは油の残ったフライパン。 だって、まったく気力が湧いてこないじゃない? わたしを慰めるもの…今となっては、冷蔵庫の機械音だけね。 こんな時でさえお腹がすく。でも今は、冷蔵庫のあの灯りさえ見たくない。 暗くていいわ。光の中に身を置きたくない。 Bu・・・・nn・・ 「なによ。なんか文句ある?」 冷蔵庫に話しかけても、虚しいだけね。 「ぁぁ…」 涙も出やしない。 Bu・・・・nn・・ 「だから、う
ちゅ~も~く! オレがだれか? 見りゃわかるだろう そうだ、バナナだ! うまそうだ ボディを飾る斑点は食べごろサイン おおっと、迂闊に触ると傷んじまうぜ いつも気になる「甘さ」と「固さ」 産地、ブランドで値段もピンキリ 昔は病人にしか食べてもらえなかった 時には叩かれながら売られたこともある だれも聞かない部位の名称 上から「クラウン」「ネック」… 湾曲して行った先の黒いのが「フィンガーティップ」だ まだまだオマエを虜にできる バナナには王様だっているんだぜ だ
わたしはピアノ。 これまでオーケストラで素晴らしい音楽を奏でて来た有名な、グランドピアノである。 次のお仕事は、さて…ウィーン? ベルリン? イギリス? フランス? イタリア、オランダ、チェコ? どこ!? まぁ、どこでもいい。 さぞ素晴らしいところだろう。 え? 塗り替え? いや~参るな~。またモテちゃうな~。 だってイケぴあだし、漆黒のオレ。 ところ変わってと某ショッピングモール。 そしてストリートピアノのために設置された漆こ…しっ…えぁ!? 漆黒ちゃうやん、ゼ
「ね、ちょっと。そこの…そこのおにーさん」 誰もいないはずのホールの上から声がする。 「ぁ聞こえた?」 「ハイ…?」 「ねぇピアノ弾いてみなぁい?」 妙に艶っぽい声だ。 「ぴあの?」 「そう、そう、ピアノ」 言われて振り返ると舞台上にグランドピアノ。 「あぁ~ん。そっちじゃない! こっち」 どうやら声は舞台袖からするようだ。 「そうそ、こっち。あたしよ」 舞台袖、壁際の暗がりに木造のラップピアノが見える。 「あたし? え、ピアノ?」 「だからそう言ってるじゃない?」 確かにピ