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うたかたの…

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短編…より短いかな。小話かな 詩…とか、心のささやきとか
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2021年11月の記事一覧

報告

この日の俺は珍しく、何年も前に買ったスーツを引っ張り出し、黄ばんだワイシャツを捨て、靴を磨いた。 なけなしの金で買った中古の車を、初デートの彼女を迎えに行くときのような気分で、できる限りの手入れをした。 「やっぱり普段着でよかったんじゃないのか?」 「いいじゃないの、たまには。それに、久しぶりなんでしょ?」 「まぁ。そうだけど…」 そんな会話を交わしたあと、車に乗り込み目的地へと向かった。 「今さらカッコつけても、な…」 久しぶり…というには、長すぎる時間のような気も

失恋冷蔵庫

「はぁ…」 なにもする気がしない。 気分はまるで出がらしのお茶、もしくは油の残ったフライパン。 だって、まったく気力が湧いてこないじゃない? わたしを慰めるもの…今となっては、冷蔵庫の機械音だけね。 こんな時でさえお腹がすく。でも今は、冷蔵庫のあの灯りさえ見たくない。 暗くていいわ。光の中に身を置きたくない。 Bu・・・・nn・・ 「なによ。なんか文句ある?」 冷蔵庫に話しかけても、虚しいだけね。 「ぁぁ…」 涙も出やしない。 Bu・・・・nn・・ 「だから、う

二重人格バナナ

ちゅ~も~く! オレがだれか? 見りゃわかるだろう そうだ、バナナだ! うまそうだ ボディを飾る斑点は食べごろサイン おおっと、迂闊に触ると傷んじまうぜ いつも気になる「甘さ」と「固さ」 産地、ブランドで値段もピンキリ 昔は病人にしか食べてもらえなかった 時には叩かれながら売られたこともある だれも聞かない部位の名称 上から「クラウン」「ネック」… 湾曲して行った先の黒いのが「フィンガーティップ」だ まだまだオマエを虜にできる バナナには王様だっているんだぜ だ