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うたかたの…

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短編…より短いかな。小話かな 詩…とか、心のささやきとか
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2021年10月の記事一覧

あの頃

先生、わたし…話したいことがたくさんあります だけどきっと会ってしまったら、言葉が溢れて困らせてしまうかもしれない… 随分とご無沙汰していますが、お元気でしょうか? わたしは相変わらずですが、あの頃より賑やかで、人前で話せるくらいの度胸がちょっとだけつきました笑 わたしはだいぶ先生を困らせていたと思うので、あまりいい生徒だったとは言えませんね。当時はわたしも反発していましたし、本当に子どもだったと思います 3年の時だったか…職員室で、先生に「大人になりなさい」と叱られ「ど

しゃべるピアノ

わたしはピアノ。 これまでオーケストラで素晴らしい音楽を奏でて来た有名な、グランドピアノである。 次のお仕事は、さて…ウィーン? ベルリン?  イギリス? フランス? イタリア、オランダ、チェコ? どこ!? まぁ、どこでもいい。 さぞ素晴らしいところだろう。 え? 塗り替え? いや~参るな~。またモテちゃうな~。 だってイケぴあだし、漆黒のオレ。 ところ変わってと某ショッピングモール。 そしてストリートピアノのために設置された漆こ…しっ…えぁ!? 漆黒ちゃうやん、ゼ

朝の風景

その日の運勢は玄関で決まる。 それはニュース番組の占いなどではなく、朝、仕事に出掛けるその瞬間、玄関を開けてお向かいさんに出くわすかそうでないかでその日の命運が分けられるのだ。そしてそれは0か、10でしかない。 お向かいの奥さんはどういうわけかいつも不機嫌で、目を合わせなくてもその姿、気配を感じるだけでこちらを落ち込ませるだけの空気を持っている。奥さんに罪はないのだが、その不機嫌さ加減がまた尋常ではなく、こちらを不快にさせるのに充分なほどの負のオーラを放っているのだ。だから

しゃべるピアノ

「ね、ちょっと。そこの…そこのおにーさん」 誰もいないはずのホールの上から声がする。 「ぁ聞こえた?」 「ハイ…?」 「ねぇピアノ弾いてみなぁい?」 妙に艶っぽい声だ。 「ぴあの?」 「そう、そう、ピアノ」 言われて振り返ると舞台上にグランドピアノ。 「あぁ~ん。そっちじゃない! こっち」 どうやら声は舞台袖からするようだ。 「そうそ、こっち。あたしよ」 舞台袖、壁際の暗がりに木造のラップピアノが見える。 「あたし? え、ピアノ?」 「だからそう言ってるじゃない?」 確かにピ

負けないからね

欲のないあなたが憎らしいと思った だって、だれだって欲しいものはあるはず なにをおいても手に入れたいと思うもの そうね、わたしの欲しいものが あなたのそれと同じであれば これほど嫉妬もしなかったのでしょう 謙遜する姿こそに殺意を覚える 顔も知らないあなたにそこまでの自分が可哀想ね だって、負けを認めているようなものだもの そうよ! 負けてるわけじゃない ただ少し価値観が違うから、イライラするだけ だからこれこそ無駄な感情、無駄な時間 欲のないあなたが物欲しそうにすると