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「ねェ、どうやってタバコやめられた?」 「なんか最近、体の衰えをすごく感じるの ほら、だってもう50だし…四捨五入すると。50なわけ…」 「あたし、旦那と同級生なんだけど、 早生まれだからいっこ小さいはずなのに 旦那の方が誕生日早いから、いつも1個サバよんじゃうの 大きい方に」 「多分47だけど、咄嗟に48って言っちゃう 47ならまだギリギリ45でもいけると思うのに 48って言っちゃうと、もう50は目の前なわけ」 あ、これは詩よ、あくまでも 嘘。心の葛藤だ
それは夢だと解っていた。 家の中は橙色の裸電球でも暗く、まるで停電の蝋燭のような儚い灯りの中にいた。なのに、奥の襖を開けると途端に明るく、日が照っていて眩しいくらいの夏が覗いた。 一歩前に出ればそこは外で、さっきまでの陰鬱な屋敷内が嘘のようで、それが夢なのだと解った。壁を透かして見ているような、そんな映像が目の前に、とにかく眩しく、照明を間違えて調節したような、目を開けていられないくらいの光で、慣れると見慣れた家の外の景色だった。 気づくと、上の方から人だかりが談笑しながら
「え~なんでぇ…」 そんな柚の声など聞こえていない木綿子は、硝子戸の向こうへ吸い込まれるように消えた。 「露天風呂、あたしだって行きたいのに」 その場に立ち尽くす柚に、 「ゆっくり体を流してから外に行けばいいわ。それにいきなり外に出たらさすがに寒いかもよ」 頭からシャワーをかぶる麻子は、口に入ってくるお湯を下唇で飛ばしながら言った。 「もう…」 ふんふんふん、と鼻息でも聞こえてきそうな勢いでお湯の流れる床を踏みしめながら麻子のもとへ向かう柚。 「ふざけてると転ぶわよ」