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マイソールの白檀~南インド、魔法の香り
インド南部、デカン高原の南端に広がるカルナータカ州は、温暖な気候に恵まれている。
州都で南インドの玄関口となるベンガルールもそうだが、18世紀末、イギリス支配と激闘を繰り広げたマイソール王国の首都マイソールは、古都にふさわしい落ち着きと風格を街に漂わせている。
マイソール市街をオートリキシャに乗っていて、いつも目に付くのが広い道を覆う街路樹の大木である。雨期に黄色い花を一杯咲かせるから和名でコウエンボク (黄炎木)、現地ではコッパーポッド(copperpod)の木と呼ばれる。
樹形はクスノキに似ているが、インドシナ半島原産のマメ科の木で、花の後、銅のような茶色のさやを実らせるから英語の呼び名は「銅色のさやのなる木」というところから名付けられたのだろう。
野太くうねる黒い幹と分厚い樹勢が、インド名物の激しいクラクションやエンジン音を飲み込んで、南インドの遠慮ない直射日光を受け止めてくれる。
しかも、樹形が美しい。幹の太さに比べて枝葉がブロッコリーのように広がっていて、まるで巨大なこうもり傘を立てたように見える。
そんなマイソールの街中で、そのおっさんは、気付けば僕たちの横を歩きながら気安く話しかけてきた。
ホテルを出て、旅に欠かせない寝酒を買おうと、僕は妻と酒屋を探して歩いていた。酒類販売が日本のように自由化されていない国では、いつも酒屋探しに苦労する。
どの旅行記だったかは忘れたが、
「インドで道を聞いてはいけない。インドの通行人は聞かれたら確信がないのに適当に答える。それが一種のマナーで、彼らに悪気はない」
という意味のことが書いてあった。今回もそのワナに落ちたのか。
「ああ、酒屋ならそこにある」
「すぐ向こうだ」
「その道を渡ればある」
シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!