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0円で読める書評3・モーガン・ハウセル『サイコロジー・オブ・マネー』


はじめに

 最初に言っておくと、私は「お金」の初心者です。せっかく本書を読んだので、書評を書いてみたいと思っていますが、内容をかんたんに紹介してショボい感想を述べる以上のことができるとは思えません。「お金」についてもともとくわしい人、あるいは「お金」について価値のあることを知りたいという人にとって、私の書評なぞ参考にもなりはしないでしょう。ただ、本書を読んでみたいと思うがどうだろうか、とお考えの方に、ちょっとでもお役に立てれば、とは思っています。

著者の方針

 本書の副題は「一生お金に困らない「富」のマインドセット」です。この長たらしい副題のなかで重要なのは、「一生お金に困らない」の部分です。一生を通じて、お金の問題で悩まない、苦しまないようにするためには、どういう心がまえが必要なのか。それを知りたい人にとっては(私もそのひとりですが)、参考になる記述が盛りだくさんです。
 それとは別に、「とにかくお金持ちになりたい」「いまお金に困っているのでどうにかしたい」「何に投資すればお金もうけできるか知りたい」という人にとっては、あまり参考にならない内容だと思います。
 著者は自身の投資の基本方針を次のように表明しています。

 私は世界が長期的に経済成長を遂げることを楽観視し、インデックスファンドを中心に投資をするパッシブな投資家であり、今後30年間、経済成長による恩恵が自分の投資先にもたらされると確信している。

本書252ページ

 要するにインデックスファンドに入れたお金を長期保有することで、資産を形成する、それ以外のこと(市場の状況とか、景気後退とか)はあえて考えない、というのです。
 著者にとってお金は、「夜ぐっすり眠るために必要なもの」だそうです。これはその通りで、「来月の生活費どうしよう」とか、「ローンの支払いで首が回らない」といったことに振り回されていては、不安で夜も眠れなくなってしまいます。とりあえず困らない程度のお金があれば、ストレスや不安はずいぶん軽減されます。そのためにお金を増やしたいわけです。必ずしもぜいたくをしたいとか、お金があると思われたいといった欲望や虚栄心のためにお金がほしいわけではない。
 この点について、「なんだよ、修行僧じゃあるまいし。せっかくもうけたお金を使わずにどうするの?」という考えをお持ちの方は、本書を読まないほうがよいでしょう(笑)。著者は「ウェルス(富)」と「リッチネス(物質的豊かさ)」の違いに注意せよ、と言います。
 1千万円の新車に乗っている人は、1千万円を使ってしまったか、1千万円のローンがある人のことです。この人は「リッチ」ではありますが、ほんとうに金持ちかどうかは分からない。しかし「ウェルス(富)」がある人は、1千万円を使わずに取っておくでしょう。

 富は目に見えない。それは、使われていない収入のことだ。富とは、後で何かを買うための、まだ取られていない選択肢だ。その価値は、将来的に今よりも多くのものを買う選択肢や柔軟性、成長をもたらすことになる。

本書147ページ

 この考え方になじめるかどうかが、重要なような気がします。私は特別ぜいたくをしたいわけではないものの、人なみの物欲ならあるわけです。しかし、ここでガマンできるかどうかが問われている。そんな風に思います。ちょっとガマンしようかな(笑)。

経済的成功のカギとは

 本書の冒頭に出てくるエピソードは、じつに秀逸です。ウィキペディア(英語)には次のような記事があるそうです。

 ロナルド・ジェームズ・リードは、アメリカの慈善家、投資家、清掃員、ガソリンスタンド店員である

本書5ページ

 リードはまったく特筆すべきところのない、ようするに地味な男性で、25年間ガソリンスタンドで働いたあと、百貨店の清掃員として17年間パートタイムで働きました。ところが、彼が92歳で亡くなったとき、800万ドルの遺産を残していたことがわかったのです。遺言により、遺産のうち200万ドルは義理の息子たちに与えられ、のこりの600万ドル以上は地元の病院と図書館に寄付されました。なぜ清掃員がそんな大金を持っていたのか? 理由はかんたんで、彼は若いころから節約してお金を貯め、それを優良株に投資していた、ただそれだけでした。
 このエピソードから著者は、興味ぶかい指摘をします。

 学位もなく、専門的訓練も受けておらず、経歴も実務経験もなく、人脈もない人間が、最高レベルの学歴、専門的知識、人脈を持つ人間のパフォーマンスを大幅に上回ることなどあるだろうか? 私にはその例が思いつかない。
(中略)だが、投資の分野ではそれが起こり得る。

本書8~9ページ

 経済的な成功を得るために重要なのは、「何を知っているか」ではなく、「どのようにふるまうか」である。ロナルド・J・リードはそのふるまいができた。だから彼は、金融の世界に山ほどいる秀才たちを圧倒するほどの成果が挙げられたのだ。そう著者は述べます。
 では、どのようにふるまえばよいのでしょうか。それを著者は「サイコロジー・オブ・マネー(お金の心理学)」と呼び、その法則を20章に分けて述べています。その一端については、すでに上の文章で触れました。

おわりに

 いかがだったでしょうか。著者が述べているのはあくまでも「心がまえ」の話ではありますが、へんに抽象的な話にはなっていないので、参考にしやすいように思います。こういう本はもっと若いころに読んでおきたかったよなあ、まったく。
 お金について悩んだときの解毒剤として、本書を本棚の片すみに並べておきたいと思います。


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