内科医律 vol4
『困惑』
「おはようございます」
朝イチで律が病棟に行くと
看護師らの申し送りの最中であった。
律は電子カルテを開き患者の血液データなどのチェックを始めていた。
「605の佐藤さんは朝に少し吐気を訴えられてて・・・」とイヴの夜にささやかなパーティーを共にした宮野瞳の声が聞こえた。
その横には同じく時を共に過ごした保園愛美もいた。
あの日に医局の机に置かれていたメモ書きの事が頭に再度甦る
「来年は二人でケーキが食べたいなぁ💕」
午前中は病棟業務がメインであったため律は瞳、愛美の二人にも指示をお願いしたり、薬の処方を頼まれるなどいつも通りの業務をこなしていた。
しかし律は自分と接する際の二人の視線、言動などにいつもとは違う部分がないかを気がつけば探してしまっていた。
まぁそれも無理はなく、あの日散会した後に看護師二人は病棟の持ち場へと移動して、まもなく律も医局へと移動した。
するとそのメモ書きが置いてあった。その短い時間に二人のうちのどちらかが医局まで行くことが出来たのか、それともパーティーの途中で席を立ち医局にこっそり立ち寄っていたのか?
記憶を辿っても瞳はずっと横から離れなかったし、それを温かく見守る愛美もそこにずっといたはずだった。
となると。。。律の頭に浮かんだのは当直医の清宮麗華の極めて整った顔であった。
実はあの24日は当直のやり手がおらずに律が担当せざるを得ないことになっていた。しかしギリギリになって誰も応募してこなかった当直募集に麗華が手を上げてくれた結果律はお役御免となった経緯がある。
つまり麗華はあの夜に自ら希望して当直をしていたのだ。
ギリギリになって「予定がなくなり」仕事をすることに決めたのだろうか。そうであれば彼女があのメモ書きを置いたとしても矛盾はないし、真っ先に病棟から離れたのも彼女であって、律が行くまでに医局に行くことも物理的には可能だった。しかし初対面の律に対してそこまで大胆な行動に出ることが出来るのか、そこにはやはり疑問が残っていた。となるとやはり当日の言動からは宮野瞳の仕業である可能性が高いのではないか、そして同時にそうあって欲しい気持ちも律の中には芽生えていた。
午後の検査を終えた律がエレベーターに乗ると患者を検査室に連れていった帰りの保園愛美が空の車椅子を押しながら乗ってきた。
「あ、先生!こないだはありがとうございました!めちゃ美味しいケーキでしたし素敵な夜になりました!」
「いえいえこちらこそ喜んで貰えてよかった!」
律が笑顔で返す。
すると愛美が一呼吸置いて口を開く
「先生、ちょっと気の早い話なんですけど。。。来年・・・」
と言ったところでエレベーターのドアが開き他のスタッフ、患者が乗ってきたため愛美は黙って下を向いた。
二人が向かう6階にエレベーターは到着し、二人はそのままそれぞれの持ち場へと向かって行くのだった。
to be continued
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