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ニール・パートと近代市民社会の原理

カナダのロックバンド、ラッシュ(rush)のドラマーにして作詞家のニール・パート氏が脳腫瘍で1月7日に死去。

ニールのご冥福をお祈りするとともに、ニールのアルバムに込めた近代市民社会の原理に想いを馳せました。

ニール・パート(Neil Peart:発音に近いのはピアートだが、日本でパートと呼ばれていることは本人も承知)は、多彩な打楽器と変拍子を自在に操るスーパーテクニシャンドラマーとして玄人筋には有名ですが、実は、ラッシュの叙情詩(作詞)をほぼ全て創作している吟遊詩人でもあります。

ヘヴィメタル評論家の伊藤政則氏の1981年の本人へのインタビューによると、名作「西暦2112年」のイメージデザイン(赤い星に裸体の男が一人で立ち向かう様子をイメージし)に関して、ニール曰く

「彼は赤い集団に対する”個”の象徴だ。赤い星は共産主義的な考え、すなわち、国家の全体主義が個人よりも大切だと考える大きな存在を表現し、彼はそれに抵抗している。つまりは、人間の尊厳を訴えている。これはラッシュ自身というよりも、より抽象的な存在で、抵抗する人なら誰でも当てはまる」

自由至上主義思想家アイン・ランドに影響されたこのアルバムは、同じような没個性的な曲を要求する音楽業界(=赤い集団としての全体主義)に抵抗する意味で、A面だけで一つの音楽を構成する長大な叙情詩を構成させ(クラシックの交響曲のように)、このアルバムを最後の賭けとして発表(結果的に大ヒットしてロックの名作として後世に名を残します)。

集団よりも「個」の大切さを主張し、音楽業界に立ち向かったラッシュという孤高のバンドは、ニール・パートのドラミングのように人間の「進歩」を信じ、自由を信じ、新しいものを創造していくという「近代市民社会の理念」を象徴するバンドでした。

そしてそのバンドのコンセプトを一身に担ったニール。

ニールのご冥福を改めてお祈りいたします。

*カナダ アルバータ州 サンシャインメドウ ラリックス湖&モナーク山

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