「絶望を希望に変える経済学」移民問題
「絶望を希望に変える経済学」より、まずは移民問題。
著者によれば「移民は、実はさまざまな効果を移民先の国家にもたらす」といいます。
■移民の受け入れについて
日本人はもともと移民嫌いだったと思うのですが、2020年のNHK の世論調査をみると最近はそうでもないようです(外国人労働者受入に賛成する人は70%以上)。
そもそも日本は雑種文化で、何でも受け入れて、いいものは自分達に合うように加工する、ということをずっと実行してきました。遺伝的にも「雑種」で、天皇家はじめ我々は純血種ではないのです(どこまで遡ったら純血になるのかは?)。
内田樹「日本集合論」でも言及しましたが、日本は雑種文化なんだから、個人的にはもっと移民を受け入れて「雑種という日本文化の強み」をもっと活かすべきだと思うのですが、最近は日本人の意識も変わってきたので、直近のウクライナ人含め、これまで以上に積極的に受け入れたほうがいいと思っています。
■移民問題への誤解
さて著者バナジーも、移民政策については国家の発展面で効果が大きいにも関わらず誤解が多いといいます。
まず「最近移民が増えている」という言説については、
とし、移民は世界的には全く増えていません。
また、移民は移民が政治問題になっている国(仏・独・伊・英・米・スウェーデン)を対象にした調査では、移民の数や構成について大きな誤解が存在。
*イタリアの事例:移民のシェア 回答者平均値26%(事実は10%)
上記のほか、移民問題で世界的に話題になるのは受け入れ国民の「単純労働の賃金が下がる」「生活水準全体が下がる」「仕事を奪う」という認識についても、全てそのようなエビデンスはない、と否定。むしろ、生活水準に関しては、移民は移民自身と受入国住民双方を押し上げると考えられるといいます。
■移民したくて移民する人は殆どいない
基本的に生まれた国でずっと寿命を全うしたいという人が世界中の住民のスタンダード。移民するのは、致し方なく移民せざるを得ない人が大半。
かつて、日本人や中国人も、食べていくために仕方なくハワイや南北アメリカ大陸に移民していったわけで、生まれ育った故郷で食べていけるんだったら多くの人は移民しなかったのでは、と思います(もちろん例外はあるでしょうが)。
■移民は人口増と同じ経済効果を生む
かつてマイアミにキューバ難民が大挙して押し寄せたことがありました。1980年4−9月にキューバの指導者カストロが、キューバを出国したい人は出国して良いと突然許可を出したので、12万5千人のキューバ人が一挙にマイアミに押し寄せたのです。この事件を対象にデビットカードの履歴に基づく賃金と雇用率について難民流入前後比較したところ「マイアミ住民の賃金や雇用率は全く変化なし」という結果。
移民がよく「仕事を奪う」とも言われますが、著者は移民は、
としてむしろ受け入れることで既存労働者はより高賃金の職にありつけるようになるといいます(特にデンマークの事例)。
著者はいくつかの移民効果とその理由を滔々と記述していますが、簡潔にいえば「移民増=人口増」ということで、人口増は一般に経済のパイを増やしますが、移民でも同じ効果が得られるということです。
■並外れた能力を持つ移民
基本的に人間は故郷を離れたがらないものですが、移民する人々の中には現状から逃れるためではなく、冒険をするために海を渡ってくる人もいるので、優秀な人材も多いといいます。
なので、ご存じのようにGAFAM5社の創業者は、ユダヤ系(グーグル)・シリア系(アップル)・ユダヤ系(フェイスブック)・デンマーク系(アマゾン)・ドイツ系(マイクロソフト)の移民。皆アングロ・サクソン系ではありません。
本書によれば、
著者バナジー曰く
最後に、ウクライナ侵攻に関連していうと、
かつてフィンランドは第二次世界大戦でナチスドイツに加担したため敗戦国となり、旧ソ連にカレニア地方を取られてしまいました。致し方なくフィンランドに移住したカレニアのフィンランド人たちは、25年後にはもともと住んでいたフィンランド人よりも裕福になったらしい。強制移住者は、身軽で機動的かつ都会に住んで正規雇用されたから。加えて強制移住の経験がこの人たちをより冒険的にしたからではないかと著者は推論しています。
*写真:フィンランド ヘルシンキ市街(2018年撮影)