「習近平帝国の暗号2035」中澤克二著 書評
<概要>
2012年の総書記就任以降、2035年をゴールとした習近平の思惑と、毛沢東時代から続く権力闘争が今もなお継続している中国共産党内部の実態を暴きつつ、対米国・北朝鮮・台湾・日本との関係に関しての2017年までの軌跡を紹介。
<コメント>
日経新聞で「激震 習政権ウオッチ」を連載している記者(編集委員)、中澤克二による2018年出版の書。
最新の情報については、日経新聞の著者の以下連載をフォローすればよいと思いますが、一つの書籍として習政権の内情を通読して改めて痛感するのは「中共=権力闘争」ということ。
中国現代史を彩った中国共産党の権力者(毛沢東、劉少奇、林彪、周恩来、鄧小平など)に関する類書同様、中国共産党幹部の目的はただ一つ「権力闘争における勝利」であり、彼らにとっては、人民も経済も国際関係もあらゆる政治上の課題全ては権力闘争に打ち勝つための手段でしかありません。
したがって、中国の政治経済の状況把握は中共内の権力闘争の実態を知ることで「おおよそ、その動向がわかる」ということになります。それを著者もよくわかっているので、タテマエで動く表の世界の裏には、どんな権力闘争が隠されているのか情報収集し、そして「そういうことだったのか」という結論になります。
習近平が仕掛けた権力闘争の第一弾は「反腐敗運動」。この運動を展開することで政敵を悉く失脚させ排除していきます。毛沢東が仕掛けた百花斉放→反右派闘争、大躍進、文化大革命などと構図は全く同じ。
汚職が蔓延る社会は、モラルハザードを起こし組織機能を低下させるとともに労働生産性も下がってしまうので、汚職を撲滅するに越したことはありません。しかし純粋に汚職を撲滅したいからやっているのではなく、反腐敗運動によって政敵を倒したいから、反腐敗運動という手段を使っている、という実態が本書を読むとよくわかります。
そして、現時点始まりつつある「共同富裕」や「不動産規制」もきっと習近平の長期政権に向けた足固めのための手段として理解すべき政策に違いありません。
毛沢東や鄧小平と同じように、習近平が終身最高実力者となるための目標として2035年という年が重要だと著者が紹介。この年は習近平が82歳になり、毛沢東が亡くなった年齢と同じ年齢になります。仮に毛沢東より長生きしたとしても、鄧小平のように院政を敷いて最高権力者として力を発揮できるよう習近平チルドレンを育成。
したがって2035年は、超大国としての経済面・軍事面等において米国に追いつくための期限となる年にしたのです。
個人的注目は、中国がゼロコロナ政策をいつやめるか。オミクロン株の世界的流行で中国でもオミクロン株がちょっとずつ広がっていますが、ゼロコロナ政策では立ち行かないことがこの2年間で明確になった以上、いずれ失敗するのは目に見えています。ゼロコロナ政策転換は冬の北京五輪閉幕後のタイミングかなと思いますが、習近平がゼロコロナに永遠にこだわっていると、いつまで経っても開国できず、また権力闘争の炎が再燃するのでは、と思っています。
最後に、本書掲載の中共トップのメンバーを追っかけると、今権力闘争がどのような動きになっているかわかるので、紹介しておきます。2022年1月現在も、ますます習近平カラーが強くなっています。
*写真:中国 上海 玉仏寺(2008年撮影)
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