美男美女とは誰か『美人の正体』越智啓太著 書評
<概要>
「美女・美男子の正体を心理学的に研究すると現時点ではこのようなエビデンスがあります」という、非常に興味深いテーマ。美男美女とは何か?なぜ彼ら彼女が魅力的なのか?美男美女の性格・知能などの能力が統計的に平均値とどう違うのか?などなど、各種美男美女に関するエピソードが満載。
<コメント>
以前読んだマット・リドレー著『赤の女王 性とヒトの進化』も合わせて「美男美女とは誰か」、心理学的・生物学的知見を整理したいと思います。
■平均顔が美男美女の正体
まず『美人の正体』では世界中の調査によって、どのような「顔や体型が魅力的か」に関しての調査結果を俯瞰すると、結論的には男女とも「肌がキレイな平均顔」が美男美女だという結論。そして女性に限っては「幼児顔」も。
さまざまな人の顔をコンピュータで合成して作って平均顔を作るのですが、合成する顔の数が多ければ多いほど「魅力的だ」と答える人が多いという結果に。日本人を対象にした研究もあるのですが、これも同じ結果に。
さらに女性だけに限っていうと、平均顔に加えて「目が大きくぱっちりしていて顎がほっそりしている」という幼形成熟(ネオテニー)が、特に美人の要素として重要だということ。
これらを生物学的にみれば、私たちは性行為の対象に「美男美女」、特に男性は幼型化した女性を求めがち、ということは「平均顔で幼型化した顔を持つ人は、子孫繁栄に資する根拠がある」ということ。
その根拠とは、平均顔は、より標準的な人間の遺伝子を保有しているということから、遺伝的な欠陥がより少ないと想定され、子孫繁栄に繋がりやすい。
更に肌がキレイということは、より若い、つまり繁殖する能力が高い。更に幼型化した女性は、若さの証明ともなり、これもより繁殖力が高い、ということにつながっていくのでしょう。
つまり、以下の結論。
(なお、人間以外の類人猿のオスはメスの年齢に関係なく、選り好みなく交尾します)
■女性の魅力は「胸の大きさ」と「ヒップ&ウエストの差」
一般に男性は、胸の大きい女性を好みます。実は、他の動物のメスが胸が大きい時は、授乳している時だけです。赤ちゃんもいないのに胸が大きいのは人間だけ。
例えば類人猿の場合、発情するとメスのお尻が大きく赤くなります。これがセックスアピールになっていて、赤ちゃんを抱えている時だけ乳をあげるために胸が大きくなり、子供が大きくなれば胸はまた元通りの小さい胸に戻ります。
人間の場合は、一般に類人猿のお尻の役割(=セックスアピール)を胸がしているのではないか、と言われています。人間には発情期はないので、ふだんから男性に対し胸の大きさを女性がアピールするように進化したのではないか、ということです。
それではウエストとヒップの比率(=WHR:ウエスト・ヒップ・レシオ)についてはどうか。
進化心理学者のデヴェンドラ・シンが、1993年に18歳ー22歳の男性106人を対象に調査し、その黄金律を発見しました。それは「0.7」。ちなみに女性が太っているか痩せているかは、あまり関係なく、どちらであってもWHR「0.7」に魅力を感じるという結果。
以下、WHRの事例
AKB48の場合、ウエストやヒップの値自体はバラツキがあるにもかかわらず、その比率は小数点以下2桁まで一致するという事実。
それではなぜWHR0.7が理想的なのか?については不明なのですが「細いウエストに魅力を感じる」という点については『赤の女王』でその仮説が紹介されています。
現代人と違って狩猟採集時代の女性は、授乳中は生理がなく妊娠できませんし(栄養状態が悪かったからではといわれている)、妊娠中ももちろん妊娠できません。
したがって妊娠できる期間は短く、妊娠可能な女性かどうかについて、男は女性のウエストの細さを判断材料にしていたのではないか、ということ(太いウエストは妊娠初期の可能性がある)。
■なぜブロンドに魅力を感じるのか
『赤の女王』によれば、ヨーロッパ人の間では古代ローマの時代から女性の髪をブロンドに染めるぐらい、ブロンドは昔から女性の魅力の一つとして特徴づけられていました。かつてイギリスでは「ブロンド」と「美しい」は同義語であったらしい。
実はブロンドは子供に特徴的な遺伝子で、20代前半までしかその美しいブロンドは維持できない。したがってブロンドの女性を選べば、年齢的に若い女性を選ぶ、ということになり、男性がブロンドに魅力を感じるようになったのではないか、という。
ちなみにブロンドは『交雑する人類(デビッド・ライク著』によれば、古代北ユーラシア人の遺伝。この遺伝が、太陽光が弱い環境下で特に北欧人(=ゲルマン系)にその特徴が残り、北欧人がバイキングとなってヨーロッパ各地に分散。
そして若い女性を選り好みした男性が更にブロンド遺伝子を拡散させた、という流れ。
■魅力ある男性とは
『赤の女王』によれば「女性は質を求め、男性は量を求める」。つまり女性の繁殖は、お産を伴うので、たくさん子供を残すことができないことから、より質の高い遺伝子を求めます(男性の繁殖はお産を伴わないので量を求める)。
そして「女性は身体で選択され、男性は人格で選択される」といいます。男性の人格とは「冷静沈着、自信、楽天的、能率の高さ、忍耐力、勇気、決断力、知性、野心、経済力など」。
『美人の正体』では、女性が求める「男性の質」とは、日本含む世界中の合計37の文化圏における調査については、37の文化圏のうち、なんと36の文化圏で「女性は男性の経済力に魅力を感じる」という結果に。
ただこの結果は、いまだ世界で完全な男女の雇用機会の平等が達成されていないので、女性も男性と同じくらい経済力がつけば、自ずとこの結果は変わるかもしれません。とはいえ、自立的能力の高い男性は、それだけ生存率が高い遺伝子を保有しているわけですから、あまり変わらないかもしれません。
更に加えてマッチョな男性も該当するといいます。具体的にはWER=0.6(ウエスト・ショルダー・レシオ)の体型が最大との調査結果。
と言いつつ、女性が身体的特徴で男性を選択するのは、ちょっと複雑で「男らしい男」を選ぶ場合と「女性らしさを持っている男」を選ぶ場合の2パターンあるというのです。
上記関連で面白いのは、長期的なパートナーがいる女性に関して、パートナー以外と性行為をする頻度は妊娠可能性が高まるほど増加することが多くの研究によって示されているとのこと。
女性は、自分がいかに妊娠できるかどうか、に合わせて自分の魅力度もアップするらしい。
このように、いくら人間が他の動物とは違うといっても、人間固有の特徴を生かしつつ、生物の目的(=繁殖)から逃れることはできないのですね。