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人間の本性は善である「ブループリント(下)」 書評

<概要>
人間は社会性一式(ソーシャルスイート)という原則にもどついて社会を形成すればより善い社会を未来に向かって実現することができるという仮説に基づき、下巻では遺伝子と他動物との近似性に基づく人間の社会性の根拠について紹介。

<コメント>
地球上の生物は誕生しては絶滅を繰り返していますが、とある本によれば生物は99.7%が絶滅したといいます。つまり今に生きる生き物は、あらゆる外的環境を潜り抜けて今に生き残った生き物であって、今後起こりうる環境変化にも耐える可能性の高い生き物。

人間も生き物の一種にしか過ぎないわけで、ヒト属が700万年前に誕生し、ホモ・サピエンスが20万年前に誕生し、その間、他のヒト属はことごとく絶滅して唯一ホモ・サピエンスだけが生き残っています。

著者クリスタキスによれば、当然ながら20万年前から今に至るまで生き残ってきたのには、それなりのホモ・サピエンスなりの理由があり、この20万年の間の環境変化の中で生き残ってきた理由は「社会性一式」ではないか、という仮説を下巻でも主張しています。

つまり

人間は道徳体系で善とみなされるものに溢れた社会をつくるようにあらかじめ仕立てられている(第12章)

というのです。しかもこの遺伝的特徴は絶えず外的環境に合わせて不断に変化しており、

ヒトゲノムにある、およそ2万個の遺伝子のうちの数100個ほどが、過去1万年から4万年の間に、影響力の絶大な文化的変化(畜産、都市化、結婚ルールなど)に反応して急速に進化してきたのだと見られている。

とのように、ひたすら変化対応し続けているのです。結婚ルールとして人間にとって一番優れているという一夫一妻制は、結婚すると男性のテストステロンが下がるようプログラミングされているのがその事例です。

宗教も人類学者ジョゼフ・ヘンリックによれば社会性一式の一環として宗教に傾くように遺伝子と脳に選択圧がかかったといいます(ユヴァル・ノア・ハラリのいう認知革命のこと)。

■外的環境に適応した遺伝の事例:ポリネシア人

面白い事例としてポリネシア人の事例があります。

動物の原則として北に行けば行くほど同じ種でも体は大きくなり、南に行けば行くほど体は小さくなるという原則があります(ベルクマンの法則)。これは人間も同じです。体が大きい方が熱を保持でき耐寒性に優れているからです(逆もまた然り)。

しかし例外があります。ポリネシア人です。ラグビーの世界でも相撲の世界でもポリネシア人大活躍です(サモア人、フィジー人、ハワイ人=小錦、曙、武蔵丸などなど)。

ポリネシア人は南に住む人間なのになぜ体が大きいのか。ベルクマンの法則に当てはまらないのです。本書によれば、

昔のポリネシア人は当時最先端の航海術と大きなカヌーで外洋に乗り出すことになった結果、遺伝子に対する選択圧を生み出して、長期間の飢餓や海上での寒さに耐えられる体を持つようになったのかもしれない。彼らの行う船旅がいわゆる「倹約遺伝子」を通じて体のエネルギー需要をもっと有効に調節できるよう、選択を働かせたのではないだろうか?(第11章)

そして、

長い船旅や孤島での生活に役立つという意味で、何百年も前には適応的だったが、それが現在では糖尿病や肥満を生むものになっている(第11章)。


とし、太平洋の特殊で過酷な外的環境が、ベルクマンの法則とは真逆の体型を遺伝的にもたらせたのでしょう。

続く。

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