長期的な円安は「経常収支悪化」に連動
50年ぶりの超円安の状況に鑑み、このまま円安が固定化するのかどうか、知りたくて、今月出版されたばかりの本書を通読(2022年9月)。
そして読んだ結果、結論的には「不明」。というのも著者曰く、
ということ。フェアバリューとは「適正価格」のことだから
「為替の世界には適正価格がない」
ということ。
■10年前は円高が続くと思われていた
1ドル80円前後で推移していた今からちょうど10年前(2012年)、当時シティグループ証券会社の副会長だった藤田勉氏の『円高はどこまで続くのか』という書籍を読んだのですが、
この本では「円高は1ドル50円までいってもおかしくない」と書いてあったのですね。今となっては考えられませんが。
■長期的に為替に影響を与える要因は「資源価格」
とはいえ、この2書に共通するセオリーがあるのは、見逃せません。
一般に為替変動は「内外金利差」「国家財政の借金度合い」「経済成長度合い」「インフレかデフレか」などが影響するといわれていますが、そして今の超円安は日米金利差が原因だと思いますが「長期的には実はこのどれも関係ない」というのが、おおよそ両書に共通する内容。
そして両書に共通するのが「長期的な経常収支のトレンド」(おおよそ1ドル110円といわれる購買力平価については藤田氏の著書で10年以上のスパンに限って相関ありと言及)の可能性。
特に経常収支に関して、10年前の円高より東日本大震災が起きて以降、日本の貿易収支は赤字基調がトレンドになった一方、所得収支を含む経常収支についてはまだまだ黒字基調が続いていました。
なぜ藤田氏が10年前に円高が今後も続くのかと主張したかというと、経常収支の黒字基調は今後も続くだろうと予想したから。
つまり大震災で、原発停止による化石燃料の輸入増や国内工場の海外移転は加速するなどで貿易収支は赤字基調に転換するものの、貿易収支を上回る所得収支の黒字が続けば、対外純資産は増え続け、安定的に投資収益を増やして所得収支の黒字が増えるとともに、円は安全資産とみなされて円高圧力を生むから。
一方の『「強い円」はどこへ行ったのか』によれば、
資源価格高騰にともなう経常収支の悪化が為替に影響するのではないかと想定(=円安トレンド)。
とし、
としています。
つまり、資源価格の高騰が長期化すれば、日本は下表の「成熟した債権国」から「債権取り崩し国」になり、対外純資産は目減りし続けて、円は売られる方向に向かう可能性が高いということ。
というのも資源取引は必ず円を売ってドルを買う取引が発生するから。一方で所得収支は黒字になってもそのまま現地通貨のまま現地で使用されることが多いので為替には影響しにくい。
以上、整理したのが下表。資源価格の高騰が継続すればそのまま円安になるし、さらにこの結果としての経常収支の黒字も減る方向に向かえば安全資産としての円の価値も弱まり「円安が円安を生む」という構造に。
「経常収支の黒字(経常黒字)が続くので円高も続く」とした藤田氏も「資源価格が高騰した場合は除く」という前提条件付きでした。
戻って唐鎌氏は、今後、脱炭素化や資源国ロシアとの分断が長期化=資源価格の高止まりが長期化すると、日本は長期的に経常赤字国に陥り、円安は継続する可能性が高いのではないか、と想定しています。
したがって、今後の為替動向は「資源価格の高騰が構造的な要因なのかどうか」に左右されるということ。
■資源価格は今後も高騰したままなのか
理想シナリオは、再生エネルギーに関する劇的なイノベーションによって、太陽光発電やバッテリー、または二酸化炭素の機械的な吸収費用の劇的な低コスト化ですが、今の所その兆候なし。
現実シナリオについては、個人的にはロシア問題はウクライナ侵略戦争が仮に停戦したとしても、ロシアの仲間はずれは今後も長期化すると思われ、さらに脱炭素化の流れも止まることは考えられず、この結果、資源価格は高騰が続くのではないかと想定。
つまり円安傾向は続くという結論ですが、今の円安はあまりにも過激化しているので、もうちょっと円高の方向で収束するのではと勝手に想像しています。
一方で、超長期的には日銀が国債保有を無制限に拡張して日本の信用を切り売りしている状況下、日本円の信用がいつまで続くのかという問題(つまり突然のハイパーインフレの恐れ)は別途あると思っています。
*写真:ハワイ オアフ島アラ・ワイ・ポート港(2022年7月撮影)。
2022年7月のハワイは日本の物価の2倍ぐらいの感じでしたね。