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「知能」と「意識」は別物

「意識」については、過去に脳科学者の茂木健一郎著『クオリアと人口意識』の書評を通じて展開しましたが、

古生物学者、更科功先生の講義「禁断の進化史:知性と意識の進化」の内容に刺激されて、改めて「意識」について考えてみました。

千葉県浦安市(2023年5月撮影。以下同様)

▪️意識とは何か?

たとえば

「AIも技術がもっと発達したら、AIが人間を支配するのではないか」

などの誤解がまだ残存していますが、AIはどこまでいっても機械でしかありません。AIには「意識」も「意志」もないからです。

一方で知能に関しては、既にコンピューターは人間の知能を大きく凌駕しています。AIではありませんが、スーパーコンピュータの富岳の1時間あたりの計算力は、人間の計算能力の230億年分だといいます。

なので「これだけ知能が発達すれば、いずれAIにも意識が生まれてくるのではないか」と誤解している人もいますが、いくら知能が発達しても意識は生まれません。

なぜなら知能と意識は別物だからです。

それでは意識とは、なんでしょう。生物学者の更科功によると、

意識とは「自分が自分である」「自分がここにいる」という感覚がある

ということです。なので若干の知能は必要かもしれませんが、知能が発達することと、意識があるということ、とはまったくの別物だというのがよくわかると思います。

生物学の世界では、チンパンジー、オランウータン、アジアゾウ、イルカなどの知能の高い動物のほか、「ホンソメワケベラという魚が意識を持っている」という説が大阪公立大学の幸田教授によって2019年に発表され、この説はすでに生物学の世界では定説になっているとのこと(以下も参考)。

何がいいたいかというと、魚のような知能の低い生物でも「意識」を持っている、ということです。

▪️私たちの活動は、ほとんど無意識

そんな意識ですが、自分の毎日の活動を改めて追っかけてみれば、例えば寝ている時間は、意識はありません。世界平均の睡眠時間は7時間前後だから、24時間のうち既に17時間しか意識はありません。

ところが起きている17時間、本当に私たちはずっと意識があるでしょうか?

よくよく自分の行動を振り返ってみると、私たちが意識を使う場面は、ほとんどないことに気づきます。

行動経済学では、無意識的な思考、つまり反射的思考を「システム1」、意識的思考を「システム2」と称し、人間のほとんどの思考活動は「システム1」によって占められる、といいます。

◼️システム1(反射的思考)=自動的に高速で働き、努力は全く不要か、必要であっても僅かである。また。自分の方からコントロールしている感覚は一切ない。システム1の欠陥は本来の質問をやさしい質問に置き換えて答えようとするきらいがある。さらにスイッチオフできないことである。例えば自分の国の言葉が画面上に現れたら注意が完全に他のことに向いている時は別として、ついつい読まずにはいられない。

◼️システム2(意識的思考)=複雑な計算など頭を使わなければできない困難な知的活動にしかるべき注意を割り当てる。システム2の働きは代理、選択、集中などの主観的経験と関連づけられることが多い。システム2は、また、あなた自身の行動を常に監視する任務も負っている。怒っている時に礼儀正しく振る舞わせるのも、夜運転している時に警告を発するのも、こうした監視の働き。システム2の仕事の一つは、システム1の衝動を抑えること。言い換えればシステム2はセルフコントロールバス 任務にしている。

あなたが考えたり行動したりすることの大半はシステム1から発している。だが物事がややこしくなるとシステム2が主導権を握る。最後の決定権はシステム2である。

ダニエル・カーネマン著『ファスト&スロー』第1部第1章

確かに1日の生活の中で、私たちが意識的に考え、意識的に行動することは、ほとんどないことに気づくはずです。「心臓を動かす」「呼吸する」「食べる」「歩く」「本を読む」「ゲームで遊ぶ」「テレビドラマを観る」、ほとんど無意識に行動しています。

それでは私たちが意識を働かせる場面とはいつでしょう?

それは普段のルーチン的行動とは異なる「イレギュラーな行動や思考をしたい、または、せざるをえない」ときです。

ちなみにホンソメワケベラの場合、意識は持っていますが、ルーチンな行動では解決できないなんらかの複雑な状況が起きた時に、意識が立ち現れてくるかどうかは不明。

仮に意識したとしても、意識的思考までには至らないはずです。なぜなら、そこまでの知能はないからです。

しかし人間は意識する能力もあるし、知能も高いので「意識して思考」することができる。

▪️人間は、意識的に思考できる生物

つまり、人間は意識的に「自分がこうしたいからこうしよう」という思考が可能です。

そしてその思考に基づいて行動もできます。意識と知能は別物ですが「意識」を使って「知能」をコントロールすることが可能なのです。

もしかしたらこの「意識的思考=システム2」は人間だけの能力かもしれません。

オランウータンやチンパンジーも意識を持っていますので、意識して思考する能力はあるかもしれませんが、仮にあったとしてもそのレベル感は原始的で、人間のように高度に意識して意志する能力はないように思われます(そんな動物実験はあるのだろうか?)。

未来は不確定要素の支配する世界ですが、人間の場合は、他の生物のように盲目的に反射的に意志して生きるだけではなく、その場その場の変化に臨機応変に対応して、意識的に思考して行動に移すことで、その変化にアジャストする能力があります。

本能だけによって環境適応するのが普通の生物ですが、本能に加えて「意識的に思考して環境適応できる生き物」、それが人間。

だから地球上にこんなに人が増えてしまうのです。


*タイトル写真:千葉県市原市にて。
「アジアゾウ」も意識を持っていると言われている(2016年撮影)


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