『会社という迷宮』石井光太郎著 書評
<概要>
会社とは「一つの人格(=社格)であり、自律的に活動する主体である」ということをさまざまな経営用語から多面的に語ったコンサルタントの著作。
<コメント>
『コーラン』ばかりだと疲れてしまうので、ちょっと息抜きに日経ビジネスで楠木健さんが推薦していた本書を読んでみました。
■あなたの会社の存在する意味とは何ですか?
「あなたにとっての価値とはなんですか?」
「あなたの生きがいとはなんですか?」
「あなたの生きる意味はなんですか?」
というように、個人に対して問われる根源的な問いに対し、経営者は、主語を「あなた」→「会社」に置き換えて言語化してみましょう、というのが本書の言いたいことか。
その会社が生まれた時には、創業者としてのその会社の存在意義みたいなものが確かにあったはずだし、その後の企業活動が社風となって醸成されて、その記憶が今も綿々と続いているはずだし、逆にそれがなければ会社そのものは存在できないはずだ、と著者はいいます。
本書も言及している通り、最近「パーパス」なる言葉が流行っていますが、何か過去から言われてきた「経営理念」だとか「ビジョン」だとかを、新しい外来語で言い換えただけで、既視感満載の言葉。
でも結局、その会社の存在意義みたいなものが言語化されて従業員を中心としたステークホルダーに共有されていないと、会社っていい会社にならないよね、というのが著者の主張。
■いわゆる「企業価値」はほんとうの「企業価値」ではない
経営学とか会計学でいう「企業価値」はマーケットにおける会社の値段(時価総額)みたいなものだと思いますが、本来企業価値とは主観的なものであって、数字で表現できる客観的なものではない、と著者はいいます。
他にもROIC、だとかROEだとか、数字で表現できる客観的なものばかりが、企業評価の基準になってしまって、あたかもこれらの数値をよくすることだけが目的化してしまっている。
これらは本来の企業価値ではないにも関わらず、数字ばかりが世の中に蔓延ってしまって、本来的な会社としての「生きる価値」が蔑ろにされてしまっている、というのです。
本来の企業価値というのは「主観的」であって、それはコーポレートアイデンティティみたいなもの。
それぞれの会社ごとに独自のアイデンティティがあって、そのアイデンティティがしっかりしてこそ、会社としての存続する価値がある、と主張。
■それでも会社の目的は儲けること
(ここは私見です)
でも個人的には、結局会社の目的は、そんなに大それたものではなくて、どこまでいっても「持続的に儲けること」ではないかと思います。
「儲ける」ために著者がいう会社の価値の明確化が必要なんだし、そういう会社の軸みたいなものがあって従業員中心としたステークホルダーが社格を感じてモチベーションが生まれ、その結果として会社が儲かる。従業員のモチベーションが上がってもそれが会社の利益につながっていなければ何の意味もない。
最近時流行りのSDGsも、これをちゃんと企業活動に取り入れないと社会から爪弾きにされ、儲けられなくなるからです。
つまり著者がいう「人格」と「社格」は全くの別物。
人間の価値は儲けるか儲けられないか、ではありません。
「生きているだけで価値がある」のです。
しかし会社は「生きている」だけでは価値はありません。
稼げなくなったら倒産して世の中から消えるのです。
とは思いつつ、一度、経営者は日々の数字を上げるのに精一杯だと思いますが、たまにはこんな本を読んで息抜きして、自分の会社の存在価値に思いを馳せてもいいのではと思います。
*写真:ハワイ オアフ島ホノルル(2022年7月撮影)