大阪の風土:人口分布編
大阪の人口分布について、興味深いのは昨今の都心回帰という世界的な都市化現象に比べ、都心に低所得者が多く郊外に高所得者が多いという、未だインナーシティ問題(※)が残存していること。以下その詳細について。
※インナーシティ問題
都市が拡大する過程で都市の中心市街地の住宅環境が悪化し,夜間人口が減少して,都市空間としての機能が低下する現象
■東京23区よりも低い大阪市の人口密度
2015年国勢調査によれば、大阪都構想で解体されなかった大阪市の人口は275万人と10年前より2.4%増加し、大阪府全体では880万人だから、大阪府の「3分の1」の人口が市内に在住。一方、東京都の「3分の2」の人口が23区に在住(東京都1,258万人、23区849万人)しているから、大阪は東京と比較して市内人口が圧倒的に少なく、大阪府における大阪市の比重は言われているほど大きいわけではありません。
面積自体は東京23区の630㎢に対し、大阪市は225㎢しかないものの、人口密度は東京23区の15千人/㎢に対し、大阪市は12千人/㎢と、大阪市は東京23区に比して人口密度も低い。
(上空からの大阪市街:2021年10月撮影。以下同様)
というのも明治時代以降、都心が工業化して住環境が悪化し、郊外に住民が移転したから。具体的には、周辺の農地が木綿産地(河内・泉州)だったことで繊維産業が発達するとともに、江戸時代以降から続く近畿圏の窓口的地形の特徴も影響し、大阪は日本有数の工業地帯に。
この結果、都心部は煙などの大気汚染で住環境が急激に悪化する一方、人口は急増したことで、各種鉄道グループが郊外開発に乗り出します。
阪急→淀川北岸の北摂・兵庫県南部
阪神→兵庫県南岸
京阪→淀川南岸の北摂
近鉄→大阪南東部・奈良県
南海→堺・泉州・和歌山県
鉄道を媒介にした職住分離によって、東京以上に市外に人口が急増したからです。この先駆けは、小林一三が主導した阪急グループ。池田駅南西側に「室町」という分譲地がありますが、ここが日本初(1910年)の郊外型住宅地。
(現在の池田市室町)
これは渋沢栄一が開発した東京世田谷区田園調布の開発(1923年)に先駆けること13年も早かったのです(大阪府の歴史286頁)。
その後、阪急(当時は北大阪電鉄)と大阪住宅経営(株)が、千里丘陵を開発して千里山を終着駅とした千里線を開通(1920年。大阪府の歴史287頁)。イギリスの田園都市レッチウヲースを参考とした街づくりで、噴水を中心にして放射線状に街が広がっています。この辺りは田園調布と同じコンセプト。
(大阪歴史博物館の展示)
(大阪歴史博物館の千里山の住宅の様子)
実際に千里山を訪れると丘陵ならではのアップダウンの激しいエリアに低層の高級マンションが立ち並んでいました(お陰で電動アシスト自転車が大盛況)。
■大阪市の人口分布的「特殊性」(低所得者が多い都心部と低い就業率)
1980年代以降、工場は東大阪市・堺市に分散するとともに海外に移転して公害対策で大気や騒音も改善され、容積率の緩和などの土地の規制も軽減されてタワーマンションも多くみられ、都心に人口が一部戻りつつあります。
とはいえ、大阪市内の無就職者は圧倒的で、かつ都市圏では唯一中心部に低所得者が多いという結果に。しかも大阪市は就業率(就業者数/総人口)も圧倒的に低い(国土交通省の下表参照)。
大阪圏の場合、富裕層は吹田市・豊中市などの北摂や、兵庫県阪急電車沿線(神戸市・芦屋市・西宮市など)、または奈良県北部(生駒市・奈良市)に在住していて、東京のように都心部の港区や千代田区・品川区などに高所得者があまりいない、というのが特徴的。
統計上、
■地方:女性就業率が高く、共働きが多い社会
■都市:女性就業率が低く、専業主婦が多い社会
この結果上表のように都市は就業率低く、地方では就業率は一般的に高い結果になります。実際、女性のM字カーブが一番小さいのは「鳥取県」。
①保守的な価値観を持つ人が多いと思われ、女性就業率が低いこと
女性の就業率は、特に近畿地方で低くワースト都道府県は、奈良県・兵庫県・大阪府。特に大阪市の場合は36%だから、女性の3人に1人しか働いていません(男性は46%)。これは男性の就業率が高いと女性の就業率は低くなりやすいということだし、専業主婦を望む女性は未だ70%いるので男性に稼ぎがしっかりあれば、子供の有無に関わらず仕事をする意志がないということ。
②失業者数が多いこと(労働力調査:都道府県別調査結果)
都道府県単位の失業率は、コロナ前の2019年10−12月2.8%と沖縄・鹿児島と並んでワースト1。直近2021年2−6月3.6%と、東京・沖縄に次ぐワースト3。特に大阪市を区別にみると西成区9.3%・浪速区8.8%と突出して低い状況(2015年)。
③生活保護費が多いこと
大阪市は、日本一生活保護費が多く、2位の札幌市と比較しても2倍近くの金額(3,140億円:2014年)。
こうやってみると、奈良や兵庫も含む大阪圏としてエリアを俯瞰すると、大阪圏は都心が荒廃して郊外にニュータウンが生まれるという1970年代以降に欧米の大都市で起きたインナーシティ問題が未だに継続しているエリアといえるかもしれません。
以前訪れた南アフリカのヨハネスブルグでも、都心部に行けば行くほど治安が悪化する状況で、ここまで極端ではありませんが、未だ大阪圏はインナーシティ問題が残存。
とはいえ、今宮地区に星野リゾートが進出し、都心部には高層マンションが雨後の筍のように林立しているさまをみると、大阪市内も他の都市と同じように都心回帰がこれから加速していくのかもしれません。
(建設中の星野リゾート)
*写真
北浜のレトロビルと高層マンション。大阪市内でも北部と南部ではだいぶ様相は異なりますが。。。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?