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「呪詛」とはノーシーボ効果のこと『文化がヒトを進化させた』 「その3」
NHK大河ドラマ「光る君へ」をみていると「呪詛」、つまり誰かを病気にしたり死に至らしめるための方法として「呪詛」が登場します。
具体的には権力闘争に勝つために、藤原道長のお父さん、藤原兼家などが陰陽師の安倍晴明に依頼して、殺したい政敵を呪詛させるのです。
果たしてこの「呪詛」は、本当に効果があるのでしょうか?
『文化がヒトを進化させた』の中に、
「ノーシーボ効果」というのがあります。ノーシーボ効果とは、プラシーボ効果の逆で、患者や被験者が悪い結果を予想していると、実際にその有害作用が現れる現象。まさに呪詛とはノーシーボ効果のことで本当に効果がある場合があるのです。
▪️プラシーボ効果とは
すでにご存知の方も多いと思いますが、先にプラシーボ効果について説明すると、プラシーボ効果とは、偽物の薬を飲ませたにもかかわらず、病気が治ってしまう現象のことで、何十年にもわたる研究の結果、プラシーボにも明らかな効果があると、というのが定説になっています。
仮に、自分がふだん信頼している医者から「この薬は胃痛によく効きますよ」と言われて偽物の胃薬(偽薬という)を処方されたとします。そうすると、その薬自体には薬効はないにもかかわらず、本当に胃痛が治ってしまうことがあるのです。
処方された薬がプラシーボだった場合でも、80%未満しか飲まなかった患者の死亡率が28%だったのに対し、きちんと飲んだ患者の死亡率は15%にとどまった。
とのようにさまざまな実験で偽薬にも効果がある場合があることが明らかに。
プラシーボ効果を効果的に使うには、患者にいかに「この薬が効くんだよ」と信じ込ませるかどうか。患者が信じれば信じるほど、その効果が上がるのです。
面白いのは、育った文化によって、どの種類の偽薬が効くかどうか、が異なるらしい。
*胃潰瘍の偽薬;ドイツ人によく効く(デンマーク人やオランダ人の2倍の効果)
*高血圧の偽薬:ドイツ人にはよく効かない(低血圧への不安がある人が多いかららしい)
▪️呪詛とはノーシーボ効果のひとつ
ノーシーボ効果とは、本人が有害だと信じている薬を飲ませると、ほんとうに有害作用が生じてしまうこと。
例えば痛みを誘発するノーシーボ(反偽薬という)は、脳内物質「コレシストキン」を活性化させてドーパミンの分泌を抑え、視床下部ー下垂体ー副腎系(HPA系)を介して不安を引き起こします。実際に痛みが悪化するだけでなく、不安を増幅させて、なんでもない触覚刺激まで痛く感じてしまうようになります。
本書では、誕生年によってどの病気になりやすいかどうか、という中国系の人が多く信仰する占星術によって、どれだけ死因に影響するか、というカリフォルニアで行われた実験が紹介されています。例えば「土の年」に誕生した人は「瘤(こぶ)や腫瘍、結節」に関連があり、「火の年」に誕生した人は「心臓」に関連があると言われます。
この実験の結果、やはり中国占星術を信じる中国系アメリカ人は、中国系アメリカ人全体でみると女性では4年分、男性では5年分の寿命が失われていたということに。
例えば、火の年に生まれた占星術を信じる中国系は、心臓の病気になると信じない人よりも死期が早まるということ。「自分は火の年に生まれたから、やっぱり心臓が悪くなるんだ」と思い込み、その気持ちが脳に影響して更に病気を悪化させてしまう。
信じることによって脳そのものが変化し、報酬系回路を興奮させたり抑制させたりして、身体に悪影響を及ぼすのも、ノーシーボ効果で、良い影響をもたらすのがプラシーボ効果。
つまり「信じるものは救われる」「病は気から」というのはある程度、科学的にも信頼のおける諺なのです。
したがって呪詛も、ノーシーボ効果の一環と思われ、誰かを呪い殺そうと思って陰陽師などが、呪詛を行えば、その噂が本人にも伝わって「誰かに呪詛されている」という恐怖心が、脳内回路に異変をきたし、自分の体の弱い部位に悪影響を及ぼして、病に至る、というのは間違いなくあった可能性が高い。
だからこそ、真言宗における「護摩炊き」だとか「熊野詣」によって穢れを浄める、だとかのプラシーボ的宗教行為は、近代西洋医学が日本に伝わるまで、東洋医学と合わせて効果のある治療方法として存続し続けたのでしょう。
逆に呪詛は、ノーシーボ効果として、アンダーグラウンドの世界で生き続けていたのかもしれません。
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*写真:東京国立博物館「法然と極楽浄土」にて