格差って本当に問題でしょうか?
一般的に「格差は問題だ」ということが、世界的なコンセンサスになっていますが格差って本当に問題なのでしょうか?
わたしの場合は「なぜ格差が問題なのか理解できない」というのが現時点の印象です。なぜなら、
格差そのものが広がったからといって誰かが不幸になるわけではないからです。
ではなぜ格差が問題とされているのか?
それは格差が「絶対貧困層の増大」という不幸をもたらすから、と考えられているからでしょう(相対貧困まで問題にしてしまうと自由を過剰に阻害する可能性あり)。
ただし現時点でわたし的には、格差が要因で貧困層が増えているとは思えません。
それでは格差が要因で本当に世界的に貧困層が増大しているのか、以下みていきましょう。
■格差が要因で貧困層は増大しているかどうか?
調べてみると全く予想外の結果でした。世界的には格差は縮小し、貧困層も激減しているのです。
まずは格差の程度を数値化したジニ係数を経産省白書2017年版でみましょう(ジニ係数は数値が「0」に近くなればなるほど格差縮小)。そうすると世界全体では格差が拡大している、というのは大きな間違いで、逆に格差はどんどん縮まっています。
「ファクトに基づき世界を正しくみよう」と提言して世界的ベストセラーになった「ファクトフルネス」によれば、下表の通り、直近2000年以降でみて貧困層も激減中。
格差については、我々の実感やマスメディアで言われている格差問題と全く違う推移です。ではなぜこんなことが起きるのでしょう?
多分、我々が触れているマスメディアや各出版物・時事関係ネット情報は、先進国だけを対象にしているからかもしれません。そして行動経済学でいう「悪いことに目が向きやすい」というバイアスのせいでしょう。
それでは先進国のジニ係数をみてみましょう(経産省白書2017年版より)。
残念ながら先進国に限ってみても、一括りに悪化しているとはいえない結果となってしまいました。
特に悪化しているのはスウェーデンや米国。ただしスウェーデンの場合はもともと極端に格差が小さい社会なので、上昇したといっても絶対的には、まだまだ格差が小さい社会です。
したがって格差が問題だと世界で話題になっている理由は、悪化率の酷さと先進国比較に限って絶対数値が悪い米国固有の問題が、世界的な問題として勘違いされているからかもしれません。
■日本も格差がひどくなっているのか?
ちなみに我々が住む日本は、国家の再分配政策を加味しなければ確かに格差は拡大しています(下表「赤いライン=等価当初所得」)。ところが日本は、年金などの国家の再分配後の所得(下表「緑のライン=等価再分配所得」)は、むしろ格差は縮小傾向にあります(下表は厚生労働白書2017年より)。
一般に、ジニ係数は上の世界比較同様、政府の所得再分配後(=移転後)で数値化するので、世界比較的には「日本は先進国中、中ぐらいの格差程度で年々改善している」というのが現状です。
ちなみに、格差問題専門家の橘木俊詔さんの最新の著書「日本の構造(2021年3月出版)」では「40年前(1980年)から現時点(2017年)の格差は、0.31→0.37に拡大している」としているものの「ここ最近30年の推移でみれば格差は是正されつつある」という感じだから、一概に格差が拡大しているとはいえないでしょう。
あとは直近2017年の数値「0.37」をどうみるか、ということですが、この数値も世界平均「0.62」よりもはるかに良い数値ですし、先進国の中でも決して悪い数値ではありません。
以上、格差が原因で「絶対貧困層が増えるのか」を調べようと思っていたのですが、そもそも格差は縮小しているという結果になってしまい「課題設定自体が間違い」ということになってしまいました。
ちなみに以下、通商白書もほぼ同じ結論でした。ただし彼らの使っているジニ係数の数値は「再分配前の数値」なので、意図的に悪くみえるよう画策しています。それでもほぼ似たような言説(白書で課題としている富の集中については後述)。
直近では「日本の格差問題」は週刊ダイヤモンドが特集しています。
数字のマジックですが、本記事で使用している、格差をダイレクトに数値化した下のジニ係数に関しては再分配前(当初所有)の数字を使っているので、再分配後=実際の所得の格差ではないことに要注意です。再分配前の数字は年金などが入っていないので高齢の年金生活者が増えれば増えるほど数値は自動的に悪化していく(高齢化社会になればなるほど自動的に悪化していく)という、まやかしの数値です。例えばスウェーデンで再分配前の数字を使ってしまったら上のような格差の小さい数値にはなりませんね。
(週刊ダイヤモンド 21年9/11号より)
1億総中流が崩壊したのは橘木俊詔さんの説と同じく1980年以降。直近20年では各種指標は大きく悪化していません。
唯一「生活保護費増大」については問題ですが、もともと「申請率が低かったのかどうか」という問題があるので、もっと精査が必要でしょう。ただ生活保護費の増大が貧困層を増大させているという証拠だったとしても、それは格差問題ではなく貧困問題。
一方で記事主張通り、コロナ禍によって貧困層の所得が大幅に減収したことは間違いないと思います。コロナ禍で影響を受けたサービス業は低所得者が従事する割合が多いからです。やはりコロナ問題は医療問題・ワクチン問題をできるだけ早く解決して外食産業や宿泊業・運輸業・観光業などへの悪影響をできるだけ小さくしていくことが、貧困層を減らすためのポイントではないかと思います。
*一応専門家(エコノミスト永濱 利廣)の最新の同意見も掲載しておきます
■なぜ、格差が拡大していると感じてしまうのか?
それではなぜ我々は格差が拡大していると感じてしまうのか?
これは行動経済学の成果をみれば明らかでしょう。もっと行動経済学の成果を世界的に共有すべき。最近は「ナッジ」という概念が定着して、臓器移植のドナー増大に貢献しています(自分の健康保険証の裏面を見てください)。
われわれの言う「ナッジ」は、選択を禁じることも、経済的なインセンティブを大きく変えることもなく、人々の行動を予測可能な形で変える選択アーキテクチャーのあらゆる要素を意味する(「実践行動経済学:はじめに」より)
我々は、うまくいっていないことには目を向けがちですが、うまくいっていることについては無視しがちです。したがってこの世は課題だらけの不幸な世の中に見えてしまっています。
人間は、合理的に物事を判断するエコノではなく、無意識の感情や思考で判断するヒューマン。そもそも不幸に目を向けがちである、というバイアスは、不幸なニュースの方が視聴率が取れる、という事実でも証明されています。
■富の集中(偏在)について
よくメディアで取り上げられる金融経済拡大やIT革命の結果としての「超富裕層の増大」(上位1%の富裕層が富全体の82%を独占)に関しては、経済的弱者のルサンチマン(強者に対する妬み)を産むかもしれませんが、超富裕層が増えたからといって基本的には誰かを不幸にすることにはなりません。
相続による富の継承は、血縁的な階層の固定化を招くので問題ですが、法の支配に基づく正当な稼ぎの結果としての富の増大については、問題ありません。むしろ彼ら彼女らの存在は、明らかに経済的付加価値を世界に増大させたという意味で賞賛すべき対象です(GAFAMの創業者など)。
超富裕層がいくらお金を持っていようが、我々の収入や資産の過多には何ら関係ありません。資本主義経済は限られた富を奪い合うゼロサムゲームではないからです。
*格差是正の根拠も考えてみましたが「?」マーク。