「THE HOPE 50歳はどこへ消えた?」河合薫著 書評
<概要>
「六つの思考」に基づき、50歳以降の人生も「半径3メートル世界」の幸福を実感することでHOPEを得られると指南した、マスコミでも有名な健康社会学者の著作。
<コメント>
勉強の合間の気休めに、私も愛読している日経ビジネス電子版のコラムで人気の河合薫さんの著作読了。
ちょうど今50歳(1972年生まれ前後)というと、団塊ジュニアの世代。彼ら彼女らのうち、主に大企業に勤める50歳前後の男性ビジネスパーソン(一部女性)向けの「幸福論」として書かれた内容ですが、それ以外の方にも興味深く読めるのではないかと思います。
■幸せのための「六つの思考」
心理的ウェルビーイングを提唱した心理学者キャロル・リフが、アリストテレスに影響を受けて生まれた幸福のための六つの思考方法。要するに「人生は前向きに生きれば幸せになりますよ」という感じ。
ちなみにネタ元のアリストテレス「ニコマコス倫理学」では、幸福「エウダイモニア」について、
「自分の知的能力(知のアレテー)と社会的能力(人柄のアレテー)を最大限発揮すると、刹那的ではない永続的な幸せを実感することができますよ」
という提言。
本書では、この「永続的な幸福感」の方に焦点をあてて、そのための「六つの思考」というイメージで、方法論的にはアリストテレスと若干違うようです。
■「半径3メートル世界」の「ゆるいつながり」のすすめ
著者のいう「半径3メートル世界」というのはなるほどな、と思います。これは健康社会学者アントノフスキーの「生活世界」という概念を著者なりに言い換えたものだそうです。
「半径3メートル世界」とは、自分の親しい人含め、自分の周り3メートル以内で関わりのある他者との双方向の人間関係のことで、この距離感における親愛な関係こそが、人を幸せにしてくれる、というのは同感です。なので半径3メートルというのは、親しい人だけでなく、道端で何気なくコミュニケーションとった見知らぬ人も含まれます。
これはビジネス的に有用だと言われている「弱いつながり」とは違います。
「弱いつながり」とは、自分の属性と異なる(家庭環境、仕事内容、地域、ジェンダー、世代など)人たちと、年に数回程度の少ない頻度で弱く、かつできるだけ多数つながっていると、自分の視野が広がって、物事を多面的に相対的に見ることができるからビジネスに有用ですよ、という考え方。
なお、ハーバード大学のジョージ・バイラント教授の75年もの長年の調査・研究の結果、人生の後期に人が幸せを感じるためのたった一つのシンプルな結論に至ったといいます。それは
「幸せとは、愛。以上(Happiness is love. Full stop)」
つまり人が人生の後期に幸せだと実感できるのは「円滑な人間関係」。アリストテレス風にいえば「フィリア(親愛の情)に溢れた人間関係」こそが、人生後期に至って幸せを実感できるということか。
他にもさまざまな主張はあるものの、周りに振り回されず、自分の生きる目的(=自分のやりたいことで充分)を明確にしつつ、愛をもって人と接し、前向きに生きましょう。そうすれば、人生にさまざまな困難が襲ってくる50歳以降の人生も幸せに生きることができますよ、という著者の暖かい提言です。
*写真:松戸市 矢切の河川敷(2022年4月撮影)