見出し画像

戦争&暴力の原因とは何か?

「平和が大事だ」といいつつ、平和を乱す戦争&暴力はなぜ起きるのか?

今通読中の「スティーブン・ピンカー著「人間の本性を考える(下)第17章暴力の起源」での展開は興味深かったのでメモります。

ピンカーは、本書の後、戦争&暴力に関して更に踏み込んだ「暴力の人類史」という大著かつ名著を著しますが、

本書では、

人間を生物の一種として認識した場合「戦争&暴力は人間の本能」だとしていますが、逆にその本能を制御するのも人間の本能(知性)

だといっています。

「戦争&暴力は人間の本能」だというと、結構批判を受けそうですが、歴史的にも動物行動学的にも過去の人間の過ちをみれば一目瞭然。

ピンカーが「高貴な野蛮人」と呼ぶ原始狩猟採集社会では、戦争&暴力が日常(男性の死因の10-60%を占める)というのは類書を読んでもほぼ定説。

章の冒頭では、テレビの暴力への影響は全く影響がないだとか、差別や貧しさや銃の所持(これは意外)がその原因だとか、これまでの通説をあらゆる研究結果や数値的根拠から否定。

生物学的には個別的な人間の暴力要因は以下の要件
①15歳−30歳の若い男のうちの7%の男
彼らが暴力を引き起こす原因の多くを占めます(暴力犯罪の79%)。動物学的にはオスとメスを比較してオスの方が大柄の場合、メスとの交尾を巡ってオス同士で喧嘩で勝つことが身体が大きい理由。人間も男が女よりも身体が大きいのは同じ理由。また男性ホルモン(テストステロン)が、支配や暴力に及ぼす影響を司っているというのも予想通り。
②衝動的で、知能が低く、多動で、注意欠陥が見られる、というパーソナリティー
③サイコパス:最も酷薄な性格。殺人の多くはサイコパスによるもの
④2歳ちょっとの子供:一生の中で最も人間が暴力を振るうのは2歳を過ぎたばかりの年頃

以上個別的な要件を踏まえた上で、英国の哲学者ホッブズが人間が暴力を引き起こす3つの不和の理由としてあげた「競争」「不信」「栄誉」が、暴力の原因だとしています。

◼️競争:利得を求めるための戦争&暴力

政治学者ブルース・ブエノ・デ・メスキータによれば、過去3世紀に実際にあった251の紛争を扇動したものを分析し、ほとんどの事例で、侵略者は侵攻の成功が自国の利益になることを適切に計算していたという結論を出した

本ブログでも言及してきた通り、人間は「仲間かそうでないか(ピンカー的には共感の輪)」で暴力や殺しの是非を判断しており、仲間でない人間集団は暴力を使っても良い利得の対象

原始狩猟採集社会では仲間以外の人間は「同じ人間」として認識しておらず「食料の取得を邪魔するもの」であり「食料を奪い取る標的」であり「動植物と全く同じ食料の対象」(カニバリズムは当たり前)。

原始社会以降でも同じ。「異教徒は仲間でないので殺しても良い」という理屈はキリスト教やイスラム教はもちろん世界各国の宗教でみられる現象で、異教徒は格好の利得の標的。バイキング、ベドウイン(アラブ遊牧民族)、カリブの海賊、清代末期の匪賊など、宗教に関係なく異なる集団全てが奪い取る対象(利得の対象)とみなしている専門集団も歴史上無限に存在します。

この理屈は、逆に仲間を増やせば(敵を減らせば)、人間社会から暴力は減っていくという原理をも示唆。

この瀬戸際感覚は、海外ドラマ「ウオーキングデッド」をみていると実感できます。裏切り(敵)と信頼(味方)の究極の狭間で生きる人間模様は、ただのゾンビドラマではない。

◼️不信
ピンカー曰く「ホッブズの罠」と呼ばれるもので、相互不信が暴力&戦争を招くとしました。

ホッブズはトゥキディデスの『ペロポネソス戦史』を翻訳し「戦争を不可避にしたのはアテナイの力が強くなったことと、そのためにスパルタが不安を持ったことだった」という彼に見解に感銘を受けた。

ほかの人間があなたの持っているものを欲しがるかもしれないという認識と、虐殺されたくないという強い欲求があれば、それだけで(暴力に)到達してしまう。

武装した家の主人が武装した強盗を驚かせるというアナロジー。どちらも相手を殺したいとは思っていないが、相手より先に撃って自分が打たれるのは避けたい、という逼迫した状況。

特に人間の場合は、ほとんどの哺乳類と違ってオスが大人になっても集団にとどまるため、集団と集団の戦い=戦争になりやすい。

◼️名誉
実はこの分断の現代社会において、この問題が一番大きいかもしれません。ナショナルアイデンティティや宗教的アイデンティティが強くなり過ぎてしまうと教条主義に陥り、個人の栄誉的精神を際立たせます

ピンカーによれば、

名誉の文化が世界中どこでも生じるのは、それらが誇り、怒り、復讐心、親類縁者に対する愛情といった普遍的な人間感情を増強するから

とし、上記のアイデンティティのほか、アフリカ系アメリカ人のスラム社会や牧畜・遊牧文化の社会は総じて「名誉」の毀損に著しくこだわる傾向があり、暴力に発展しやすいとしています、

◼️戦争&暴力を減らすために

武力を持った権威者の存在は、これまで考案されてきた中で最も効果的であるらしい

とし、国際的には他国を圧倒する武力を持つ超大国の存在(パックスアメリカーナやパックスロマーナ等)や、国内的には法の支配に基づく警察権力の存在の有無が戦争抑止や暴力犯罪抑止に大きく効果が得られるとしています。

面白かったのはアメリカの事例として

19世紀前半から後半にかけて都市部の犯罪率が劇的に減少したが、この時期は都市部に職業警察ができた時期と一致。

「ラブアンドピース」と叫んでいるだけでは平和は訪れません。

「圧倒的武力強者の存在(誰が麒麟を連れて来る?)」と「仲間を増やして敵を減らすための努力」が、戦争&暴力を減らすための取り組み

だということです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?