小説家になろうと決めた頃の話

始まりは違っていた。
小学生の頃。漫画家になりたいと思っていた。
自由帳にイラストを描いてはそこに物語を載せたり、四コマ漫画を描いたりした。
壁新聞の係になったのも、4コマ漫画を描きたかったから。それ以外にない。

既存のキャラを自作の世界感で遊ばせているうちに自由帳は使い切り、沢山ノート買うお金は自分になかったので、算数や国語のノートにも描き込んだ。
流石にそれは教員から両親に伝わり、そんなもの描くより勉強せいと怒られた。
それでも描く事は辞めず、最早手癖のようになっていたので描き続けた。ノートだと親にバレると思い、勉強するフリをして机に鉛筆で描いては消しを繰り返した。

しかしどんなに好きでも、技術は進歩しなかった。生来ものぐさであった僕は、特徴を掴んで描くとか、線の引き方やデッサンなどを勉強する事もなかった。
中学に上がると、絵の上手い人が増えた。彼、彼女らは息をするくらい自然にスッスッと綺麗な線を引き、白い紙にあっという間に描きあげていく。
流石に沢山いたのでは太刀打ち出来ぬと挫けた僕は、描くのを辞めてしまった。堪え性のなさは昔からである。

同時期に父から、読み終わった文庫と新書を渡された。
「漫画ばかり読むな。いい年なんだから文芸にも触れろ」
という事だったらしい。

渡されたのは、北杜夫ばかりだった。北杜夫といえば、「よわむしなおばけ」「船乗りクプクプの冒険」位しか知らなかったし、寧ろ絵本や小学生向けの話を書いてる人という認識だった。
とりあえず「夜と霧の隅で」から読み始めたが、1頁で面倒になった。唯一の新書だった「楡系の人びと」はケースから出して満足した。
これはもう読むなという何かの御告げではないかと思っていた。しかし折角もらった本だ。それに父が後々感想を聞いて来るに違いないと、渋々手にしたのが「マンボウ周遊券」だった。エッセイ集である。
その中の1作「カレーライス」。
北杜夫がラーメンとカレーライス好きなのは、ファンなら周知の事実--当時はそれすら知らなかったが--だった。その1作はカレーについての思いというか、こだわりが書かれている。
読んで思った。

これなら 俺でも 書ける!

凄く失礼な物言いだが、ろくすっぽ勉強もしていない馬鹿な中学一年のガキの言う事である。根拠などない。
しかし馬鹿であるが故か、突破的な行動だけは得意だった。
早速、小学生時代に感想文や作文をサボり、貯めるだけ貯めた原稿用紙に行き当たりバッタリで書き始めた。
最初こそすぐに何枚も書けるだろうと高を括っていたものの、400字詰原稿用紙2枚書くのに1週間かかった。
作家ってすげーなーと思う反面、いやいや俺の方が凄いに決まってると僕は妙な意地を張り、更に1週間かかり3枚を追加で書き上げた。

これは中々傑作に違いないと自信満々だった。後年それが出てきて読み返したが、どう考えても日記の延長だった。だがその当時、まだそれが誰にも負けない最高傑作だと思っていたのは確かだ。

原稿用紙はまだ余っていたので、僕は書く事を続けてみることにした。両親に見られるとまた怒られると思ったので、夜家族が寝静まった頃、こっそりExテレビのエロいコーナーを見終わってから原稿用紙に向かった。
アイデアはなかった。とりあえず当時好きだった漫画の設定に、拗らせていた厨二要素をブッ込んで破壊した何かをひたすら書いた。
プロット作業なしで書くものだからめちゃくちゃ。方向性も見えなくなったので、3ヶ月目には飽きてしまい未完となった。頭の中で物語はどんどん壮大になっていくのに、書けたのは序盤の主人公が自己紹介するところで終わってしまった。
流石の馬鹿でもこれはいかんと気がつき、原稿用紙の裏にイラストやらキャラの設定を書いた。するとどうだろう。そちらの方が楽しくなり、暫くは文章を書く事を完全に忘れていた。やはり馬鹿は馬鹿だった。

ある時、父が仕事でワープロを買い替えた。古い機種もまだまだ使えるからと、それを託された。確か1行、それも20文字くらいしか表示出来ないかなり古典的なものだったが、新しいおもちゃを貰った感覚で僕は喜んだ。
あれこれキーを触っているうちに、僕は設定を考えるだけ考えて放置していた物語を書いていない事を思い出した。忘れてから半年は経過していた。
意を決した僕は机に置いてあったエロ本をベッドの下へ封印し、散らかった部屋から設定を書いた紙切れを探し出すと、またしても夜な夜な書き始めた。今度はワープロがあったせいか捗った。しかし、キータイプの音がとてつもなく大きく、妹の両親への通報で、すこぶる怒られた。しかし乗りかかった船……というより、何だかんだで気分の乗っていた僕は、ワープロへ向かった。
悪かった学校の成績は更に悪くなっていったが、嘆くのは親だけだった。

そして中3の秋、漸く150枚相当の話は書き上がった。それだけで満足だった。満足したまま読み返した。それはそれは酷い出来だった。よくこんな物書けたなと思った。
恥ずかしさと喪失感でその150枚相当は、海岸でゴミを焼いていた人が火の前を離れた隙に投げ入れて燃やした。
そこから暫くは書かなかった。何故かそのうちに大作を書く事だけ考えてばかりいた。

という事があり、なんやかんやあって今こんな感じでダラダラ書く大人になったとさ。

#過去 #作家 #幼少期 #ラノベ編に続く

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