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さまよい人

6月半ば、新橋で道を尋ねられた。60代くらいの女性だった。
全日空ホテルの隣のアークヒルズへ行きたい、とおっしゃる。

全日空ホテルは現ANAインターコンチネンタルホテル東京だとわかるし、確かにアークヒルズはその隣だが、六本木だ。自分はそういう「おしゃれな街」には縁遠いが少なくともそれらが新橋にないことはわかる。
友達と日本テレビの地下駐車場で待ち合わせなのだという。

おや?
日本テレビは新橋(汐留)だ。
そして次が決定打だった。

「六本木を歩いていたら迷ってここまで来てしまったんです」

ホテルとアークヒルズの場所は六本木であっている。日本テレビは新橋だが地下駐車場には自分も行ったことがあるし、情景が浮かんだだけに、気づくのが遅れた。六本木から新橋まで三キロ弱。タクシーなら10分で行けるが徒歩ではちょっと迷っている間にしては長すぎる。

最終的にどこまで行きたいのかをもう一度尋ね、アークヒルズだというので、汐留駅を案内し、そこから六本木まで一本で行けることを伝えた。

終始、きょとんとしておられた。
それはこちらとて同じことなのだが。普通に道に迷ったわけではないことを、別れた後に悟った。

そういうときが自分にも訪れるのだろうか。映画や書籍、他人ごとでしかなかったが、ご婦人を見送ったあと考えてしまった。
自分の高齢の母は元気で認知症の疑いはまだなく、食事も自分で作って食べている。だが覚悟はしておくべきだろう。そして自分にも・・・。

その後地下鉄で六本木まで行ったのだろうか。
どう対応するのが正解だったのか。
今でもわからない。

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