フェイザー完全攻略ガイド:現役ローディーが教える活用法と音作りのコツ
こんにちは!
GT SOUND LABのTAKUYAです!!
音作りの世界で、音に“グルーヴ”を吹き込む鍵となるフェイザーペダル。
その独特なうねりと揺らぎは、昨今プロギタリストの間で評価され再び注目を集めています。
今回はフェイザーついて知っておきたい基礎知識に加え、ローディーとして様々なギタリストの方とお仕事させていただいた経験を元に、サウンドメイクのコツなどについても解説していきたいと思います。
ソウルミュージックで流行した魅惑のフェイザーサウンド
1970年代初期、ソウルやファンクといったブラック・ミュージックの担い手によって、いち早く見出されたフェイザー・エフェクト。
その効果はカッティングやリフのグルーヴ感を加速するための秘密兵器として、大いに活用されました。
フェイズ・エフェクトが最も多用される例といえば、やはりファンキーなカッティング・フレーズが思い浮かぶかと思います。
その歴史もかなり古く、70年代初期のニュー・ソウル期のブラック・ミュージックに始まり、その後、70年代末~80年代のウエストコースト系フュージョンでも再び定番的に使用されていることは御承知の通りです。
フェイザーを使ったグルーブ感満載の演奏が聴けるカーティス・メイフィールドのライブアルバム。
この時のバンド編成は、カーティス本人を含みギター2本、ベース、ドラムス、パーカッションという5人編成で、キーボード奏者がいない為、バンド・アレンジの幅を広げるためにギター2人(もう1人のギタリストはクレイグ・マクミューレンというギタリスト)はワウとフェイザーを駆使してアレンジの幅を広げようとした、と考えられます。
何といってもまだ1971年という時代。
しかもソウル・ミュージックゆえに、ギターの音を歪ませることもないそ中、フェイザーを駆使してまろやかなカッティングを曲中に配置し、 パーカッションやベースのアタック成分を強調することとも相まって、 リズミックなバンド・アンサンブルを生んでいることがわかります。
70年代も半ばに入ると、 全般にソウル/ブラック・ミュージックにおけるフェイザーの使用率はグッと高くなります。
マエストロ "Phase Shifter" のみならず、ミュージトロニクスやMXRなどからギター・エフェクト用のフェイザー・ペダルが多数発売されたことも一因であるのは間違いありませんが、前述のカーティス・メイフィールドなどの“新しいソウル・ミュージック”に感化されたソウル・ミュージシャンがスタイルを模倣したであろうことも想像に難くありません。
例えば、60年代にはあのアポロ・シアターでジェイムス・ブラウンのバック・ギタリストを担当し、1969年からはソウル・バンドのメイン・イングリディエントでギターを担当したカルロス・アロマーという黒人ギタリストがいます。
彼は1974年からデヴィッド・ボウイのバック・バンドのギタリスト兼バンマスとなりますが、1974年夏~秋に録音されたデヴィッド・ボウイ『Young Americans』 で既にフェイザーを使用したファンク・カッティングを多用しています。
レコーディングはフィラデルフィア・ソウルのメッカでもあるシグマ・サウンド・スタジオで行なわれ、彼がこの時に使用したフェイザーは、同時期のTVライヴでの映像などから推測するに、ミュージトロニクス製 "Phasor II" でほぼ間違いないと思われます。
アルバムのタイトル曲「YoungAmericans」 では曲の間奏部分で、そのカルロス・アロマーによるフェイズ・ギター・カッティングのみがフィーチュアされたギター・ソロパートもあります。
また、翌年録音、1976年に発表されたデヴィッド・ボウイ「Station To Station」 に収録されている「Golden Years」では、細かいギターカッティング・フレーズにほぼフエイザーを通していることも確認できます。
ここではいわゆる“ウッディな”フェイズ・トーンではなく、 フリークエンシー・コントロールを用いて“キラキラした”フェイズ・トーンをギターに用いていますが、フリークエンシ一のコントロールが可能だった “Mu-Tron PhasorII”ならではの効果とも言えます。
ソウル系ギタリストが (ワウ以外には)エフェクト・ペダルを使うことが稀な例だった時代は過ぎ、 ニューソウル以降の70年代ソウルではギターの音色にもエフェクトを駆使し、“定番”から脱却しようという新たな試みが数多く試されました。 フェイザーは、この時代のソウル・ミュージックを象徴するようなエフェクト・ペダルとも言えますが、ギター・イクイップメントの歴史から俯瞰で振り返ってみると、 カーティスにしろカルロス・アロマーにしろ新しい機材への目配せがとても早い段階であったことが窺い知れます。
極上のフェイザー・サウンドが聴ける名盤
前項で述べたソウル系ギタリストから影響を受けた日本のトップギタリスト・鈴木茂さんの作品では、まさにお手本とも言える極上のフェイザー・サウンドを聴くことができます。
はっぴいえんど 『風街ろまん』 (1971年)
鈴木 茂 「BAND WAGON」 (1975年)
フェイザーが誕生した背景
フェイザーを使いこなすにあたって、まずはその歴史や原理について理解しておきましょう。
ストンプボックス型アナログ・フェイザーがエレクトリックギター/ベースプレイヤーの間で一般化したのは70年代に入ってからですが、それ以前にも似たようなモジュレーション・サウンドを得る試みは存在していました。
よく知られている例としてはビートルズ 「Let It Be」 (70年発表)のギター・ソロパートや、ゲスト参加したクリーム 「Budge」 (69年発表) のアルペジオパートで用いたサウンドがあげられ、
ここではレスリー・アンプ/スピーカーユニットが用いられています。
1940年代初頭、ハモンド・エレクトリック・オルガン用のアンプ/スピーカーユニットとして実用化されたレスリーは今日で言う “ロータリー・
スピーカー” エフェクトを生み出す機器で、 複数のスピーカーの開口部に取り付けられたホーン/ローターをモーターで回すという大掛かりな機構に
よりドップラー効果に基づくヴォリュームの変調と周波数変調を行なっていました。
この周波数変調が今日のヴィブラートで得られるピッチの揺らぎや、フェイザーで得られる周期的な移相 (フェイズ・シフト)が混じり合ったような複雑なエフェクトを聴衆の耳やマイクロフォンに感知させていたのです。
レスリーにエレクトリック・ギターをプラグ・インした最初の人物が誰だったのかは定かではありませんが、60年代末~70年代前半にかけては前述のハリスンを始めジミ・ヘンドリックス、ピンク・フロイドのデイヴィッド・ギルモア、 ザ・バンドのロビー・ロバートソンら多くのギタリストがこの巨
大なマシーンを用いて今日のフェイザーに似たモジュレーション・サウンドを得ていました。
当時のロックやブルース、ジャズのレコーディング・セッションにはハモンドオルガン奏者が参加することが多く、ギタリストがその機材を借りて実験をするようになったのは自然な流れだったのだと思います。
また、のちのエレクトリックギター/ベース向けフェイザーの誕生に影響を及ぼしたエフェクターとしてはもうひとつ、ジミ・ヘンドリックスの69年のウッドストック・フェスティヴァルで用いたことで知られるユニヴォックス "Uni-Vibe"があります。
専用のエクスプレッション・ペダルとともに販売されたこのストンプボックス型ユニットは今日で言うロータリー・スピーカー・シミュレーターやヴィブラート、フランジャーが混じり合ったような独特のサウンドを生み出すもので、その動作原理も複数のオール・パス・フィルターを利用したフェイザーとは異なりますが、60年代末というギター・エフェクターの発展期にあってモジュレーション・サウンドが受け入れられる下地を作った点や、これをプレイヤーの足下に置けるサイズのケースに収めた点、 パラメーターのリアルタイム・コントロールを可能としていた点などにおいて先駆的な製品でした。
上記のような先達によりエレクトリック・ギター・プレイヤーの間に需要が開拓されたモジュレーションエフェクターの分野に、現在のフェイザーの原型に当たる製品が現われたのは70年代頭になります。
71年に発売された “PS-1 PhaseShifter" は、当時、 ギブソンを傘下に置いていました。
このマエストロ "PS-1"と、 弟分である “MPS-2 Mini-Phase” がギタリストの間に開拓したフェイザー・エフェクトの需要に、一層のコンパクト化と簡易な操作性を実現してこたえたのがニューヨーク州ロチェスターに工房を置くMXRの"Phase”シリーズです。
74年に発売されたDistortion+" と同じ小さなケースに収め、コントローラーをLFOレイトを変化させる “SPEED” のみに限定するとともに乾電池駆動を可能にしたモデルで、やや大柄なボディを持ち、駆動にAC電源を要するマエストロ “PS-1"とは大きく異なるユニットに仕上がっています。
この "Phase 90" の発売をもって初めてフェイザーはアマチュア・プレイヤーにも手が届く機材になったと言え、2ステージ・フェイザーである"Phase 45"、 "Phase 90" よりもやや大きなケースに6ステージ・フェイザーを内蔵し、LFOデプスを変化させる"INTENSITY" スイッチを装備した “phase 100”を含めたMXRの"Phase"シリーズは一躍、時代の寵児となりました。
フェイザーが生み出す効果
フェイザーの原型ともいえるレスリー・スピーカーよる主要な効果は、大きく以下の4つの現象として表現できます。
①チューブアンプの歪み→歪み効果
②音量の揺れ→トレモロ効果
③音程の揺れ→ヴィブラート効果
④音質の揺れ→ドップラー効果
この中で、 ドップラー効果による 「音質の揺れ」を電気回路で作り出そうとしたエフェクターがフェイザーであり、その時に位相をコントロールすることで生まれる魔訶不識なサウンドが誕生したというわけです。
人間は、動かないもの、 あるいは一定の動きを繰り返しているものに対しては感度が鈍くなる。しかしその中で、別の動きをしたり、変化していくものに対しては自然と意識が向く特性があります。
例えば、 大勢の人が右方向に歩いている時、 誰か1人だけが左方向に歩き始めたら、人は自然とその1人に目がいくはずです。
音に関しても同様で、一定のフレーズを繰り返すカッティングやアルペジオ、リフをずっと聴いていると、 耳は自然とそのリフレインを楽曲の背景として聴き、意識が薄れてしまいますが、そこに軽くフェイザーの揺れが加わることで、その揺れに「おっ」と耳が引っ張られるというわけです。
音の捻じれが生むサイケデリック感ここで挙げたような強烈なフェイズ・サウンドをはじめ、 極端に発振していくエコー、 音が減衰せずに延々繰り返す深いディレイ、 そして逆回転サウンドといった“非自然現象系サウンド”は快楽を増長させる要素として活用されることもあります。
その代表例がサイケデリック・ロックやダブです。
ことフェイザーで音にゆがみや揺れ、 捻じれを加えた時、聴き手はまるで平衡感覚が失われたかのように、空間が捻じれた感覚に襲われるのは、先に説明したように位相が音の空間表現に関わる性質を有していることに関係性があるのかもしれません。ナチュラルな揺れではない、違和感のある捻じれ
だからこそ、幻想的な感情を生み出せる。
フェイザーがギタリストに愛される理由は、そこにあるのかもしれません。
フェイザーは“何段”を選ぶのが正解なのか?
フェイザーを解説するときに必ず表記される 「段 (ステージ)」という謎のスペック、 これは何を意味するのでしょうか?
果たして、フェイザーのステージ数の違いが出音にどれほどの影響を与えるものなのか解説していきたいと思います。
みなさんはフェイザーの音作りにおいて、 どのような点を重要視していますでしょうか?
フェイザーはパラメータが少なく、 機種ごとの違いが生まれ難いエフェクトです。 そのため、他のエフェクトと比べるとこだわるポイントが少ないかもしれません。
そんな中で、1つ注目して欲しいのがフェイザーの「ステージ数」になります。 ステージ数は、 フェイザーのサウンドを決める非常に大事な要素です。 ステージ数が変わると、 全く別のエフェクトになると言っても過言ではありません。
そこでここでは、ステージ数による音の違いと、 その特徴を活かした音作りついて考えてみましょう。
続きの記事では、プロ現場でも使われている実戦的なフェイザーの活用方法やサウンドメイクのコツについて解説していますのでよかったらチェックしてみてください。
なお、10部販売したら値上げさせていただきます。
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