【ショートショート】『立方体の思い出』
星月の口づけはキャラメルの香り。僕を虜にする。真っ白な丸いコンパクト鏡のようなケースから、彼女はコロコロの小さなキャラメルキューブをひとつ摘まんで口に放り込む。
「食べちゃう前にしちゃいやよ」
漂う甘い香りに我慢できず、横に並んで寝転がっている星月の顔に自分の顔を近づける。鼻の頭が触れ合う寸前、ピシャリと頬を叩かれる。ほんわかした見た目によらず内面は固い金属で作られた小さなキューブのような女の子。迂闊に触れたりすると鋭利な角で傷を負う。
「もう食べちゃったよ」
いきなり腕を引っ張られ上半身を起こす。ニコニコ顔で星月が首に触れてくる。ツンデレは嫌いじゃない。
星月はシンメトリックなものが好きらしい。
「鏡像異性体は好きかい?」
「何それ」
「君が好きだよ星月」
左手の指を彼女の右手の指に全て絡ませる。空いた反対の手でお互いに首筋の辺りを触る。
「こうしてるのが好き」
「僕もさ」
僕たちは決して重なり合うことはない。
そういう性質なんだ。
(410文字)
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以上、こちらからお題をいただきました。