【ショートショート】『初めての鬼』
希妃は、僕が大切に思う女の子。強めのカーリーヘアーが似合う。何度目かのプロポーズをしたその日も彼女は僕の目を真っ直ぐ見ていった。
「ごめんね。私、結婚はしないの」
いつもより甘い時を過ごしたその夜。ふと目を覚ますと希妃は僕の左腕を枕にして可愛い寝息をたてていた。右手を伸ばし頭を撫でる。いつもは髪型が崩れるからと触らせてくれないのだ。
すると、ある事に気付いた。頭頂部の左側が突起のように盛り上がっているのだ。恐る恐る右側の方も探ってみるとそこにも同じものがあった。
その瞬間、希妃の腕にギュッと力が入り体が引き寄せられた。目の前には初めて見る恐ろしい形相の希妃が……『鬼』?
「頭は触らないでって言ったはずよ」
一瞬たじろいだが不思議に冷静な自分がいた。
「もしかして、君は鬼なのかい?」
君が微笑むと僕の背中に爪の先が食い込んだ。漂う甘美な香りがそれを心地良いものに変える。
「鬼だったら?」
「鬼ヶ島に挨拶に行かなくっちゃ」
「バカね」
(410文字)
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以上、こちらからお題をいただきました。