ボントロトンボ #トロンボーンの口調
こちらの続きとしても読んでいただけます。
玄の言う通り確かに僕は頼りなかった。休日のビルの谷間、誰もいない通りのベンチで僕らは風に吹かれていた。
「トンボみたいね」
風に乗って自由気ままに流れて行く。そんなイメージなのだという。
子供の頃、トンボの食べ物はツユクサと信じて疑わなかった。捕まえたトンボの口元にツユクサを近づけるとモグモグと齧るのが面白かった。実際に食べたかどうかはわからない。
玄はトンボの食べものを知らなかった。
「ツユクサをちょうだい」
「何それ」
「トンボの食べものだよ。腹へった」
「何が食べたいの?」
「知ってる? トンボは肉食なんだ」
抱き寄せ、唇を味わった。
齧るようにモグモグしてみる。
不意に玄は唇を離すと僕の左手を掴んだ。
前に言ってたクイズを思い出したらしい。
『左手中指の第二関節内側にできるタコは何の楽器のタコ?』
タコを摩りながら不機嫌そうな玄に降参した。背に腹は代えられない。
その楽器の音を真似ながら、「正解はトロンボーン」。
「知ってた」
嘘つけ。
(410文字)
* * *
以上、こちらからお題をいただきました。
※ボントロとは、トロンボーンの業界用語。