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【ショートショート】『バンドを組む残像』

ホーンセクションのオーバーダブ重ね録りが一通り終わったところでスタジオを出てロビーでくつろぐ。バンド側の録音は、ほぼ終わっているのだろう。今日、ここに来ているメンバーはボーカルのケイぐらいだ。僕らスタジオミュージシャンに挨拶をして回る。

「めちゃくちゃカッコよかったです。ありがとうございます」

僕の前だけは知らんぷりで素通りだ。僕がちょっと顔をしかめたのをケイは気づいたかも知れない。親愛の情を示すつもりならば、相変わらず少し意地悪で回りくどい。

束の間の談笑が終わり、誰も居なくなるのを見計らってケイは長椅子の隣にすとんと腰を下ろした。

「いったい何ブーたれてんの?
それともほっぺにチュウが必要ってワケ?」

「やめろよ」

 

アマチュア時代にバンドを組んでいた僕らが、プロを目指し練習を開始する筈だったその日にケイは姿を消した。

暫くして、業界では名の知れたプロデューサーと並んで会見をするバッチリメイクのケイがテレビの中にいた。ケイをボーカルとする新バンドの結成と二人の婚約発表だった。

 

「ちゃんと食べてる?」

「バカにすんな。それにもうお情けで呼んでくれなくていいから」

無言でマウスピースを楽器ケースに収めると外に飛び出した。通り過ぎるヘッドライトが眩しい。

「アフターイメージ。...…だったよな」

ケイと考えた僕らのバンド名だった。

 

(550文字)

* * *

以上、こちらからお題をいただきました。

文字数オーバーしてしまいました。すみません。

 


その後のちょっとしたケイとのエピソードが こちら にあります。
よろしければどうぞ。

 

 


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