【ショートショート】『ツノがある東館』
”がある”、”ガアル”、”ガール”。
”がある”が頭の中を占拠していた。
電車の中でも、降りてからも、勤務先のビルの中でもそうだった。
仕方ないから隣の席の同僚女性に聞いてみた。
「『なんとか”がある”』って知ってるよね」
「ええ、『チアがある』とかでしょう? 『山がある』、『森がある』...…『雌がある』なんのてのもありましたね」
「じゃあさ、『ツノがある』って何?」
「初耳です。東館さんなら知ってるかも」
「どうして東館さん?」
「いえ、別に。物知りだから、彼女」
ちょっとぎくりとしたが悟られなかっただろうか。東館まり子と付き合って半年になるが社内では秘密にしているはずだった。
元はと言えば昨夜のベッドの中でまり子が言ったセリフだった。
「今の私は『ツノがある』よ!」
さっきの隣の席の同僚女性と僕が、最近やけに仲が良さそうにしていると不満げに言ったのだ。
少し離れた席のまり子と目が合った。
両手の人差し指を立てて角のようにして見せた。
(410文字)
* * *
以上、こちらからお題をいただきました。
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