【ショートショート】『フシギドライバー』
初めて見る景色の中で車を止めた。鬱蒼とした森に迷い込み不安な表情を隠せない助手席の彼女に向かって言った。
「ねえ、ここは何処? ポンコツナビゲーターさん」
ほっぺを膨らませて怒った表情を作って見せるが、それがなんともかわいい。僕は左手をハンドルから彼女の頭に移し、くしゃくしゃにしてやった。
「なんなのよ! せっかくセットしてきたのに」
「海が見たいって言うから、君にナビをお願いしたんじゃないか」
「方向音痴だって前から知ってるでしょ?」
逆ギレである。それにしても、どうしたら海に行くつもりが森の中にいるんだろう。相当酷い方向音痴である。
「もう疲れた」とうとうそっぽを向かれてしまった。
「わかったよ」僕はサイドの窓を降ろし、クンクンと辺りのニオイを嗅ぎ取る。
「OK! 出発しよう」ある事にかけては動物的な勘が働くのである。
程なく、あっさり到着の大人のご休憩所。
「こういうトコは、すぐわかるのね。フシギドライバーさん」
(410文字)
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以上、こちらからお題をいただきました。