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vanishment
【ショートショート】『サンセットストリップ・デジタルバレンタイン』
タバコとそうじゃないやつの入り混じった煙りがもうもうと立ち込めるライブハウス・ロキシーから這い出た僕はやっと一息ついたところだった。チャイニーズシアター前のホリデーインまで酔い覚ましに歩いて帰るつもりでいた。ちょうどいい距離に思えたのだ。
すぐお隣のバー・レインボーは、腕に覚えがあるここら辺のミュージシャンが集まる知る人ぞ知る店だ。敷居の高さもかなりの店だが、そこのドアから日本人らしき女の子がひとり出てくるのが見えた。少し覚束ない足取りだ。
今夜は何かいつもと違うことをしてみたくなっていた。女の子に街で声をかけるなんて。ビールが程々に染み渡っていたせいかもしれない。
「やあ。どこから来たの?」
言葉が通じなかったら謝ってさよならしよう。英語は苦手だ。
「あなたは?」
良かった。通じた。
「東京から。生まれたのは北の方だけどね、
レインボーはどうだった?」
もう飽きたから友達を置いて出てきたらしい彼女。今夜これからどうするのか聞かずにはいられなかった。やっぱり今夜は、どこかいつもと違っていた。
「ねえ今日は何かの日?」
「二月十四日。チョコレートの日。もしかして欲しいの?」
「いらない。タイムトラベラーは現代人を好きになっちゃいけないんだ。歴史が変わってしまうからね」
「それじゃあ答えて。『マンホールのふたに塗られたチョコレートについてきみには何が言えるか?』」
彼女が言い終わらない内に叫んだ、「砂をつけちゃダメ!」 ふたりで笑い転げた。
サンセットストリップで見つけたSFが好きな女の子を気に入らないわけがない。
アカウントを交換すると、すぐにチョコレートの画像が転送されてきた。
(680文字)
* * *
以上、こちらからお題をいただきました。
文字数オーバーしてしまいました。すみません。